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多様化する次世代メモリ

産総研の新型TMR素子採用MRAM
Gビット実現へ向け大きく前進
今後の焦点はスピン注入反転法による製造実現へ

小林行雄/編集部

強磁性体のヒステリシス効果を用いるMRAM(Magnetoresistive RAM)は,次世代メモリとして本命視されている不揮発性メモリであり,高速動作,書き換えの耐性,100℃を超す高温での動作などの特徴を有している。現在は,16Mビット品の試作などが行われているが,産業技術総合研究所(産総研)では,Gビット級のMRAMを実現するための技術を04年に確立,2010年の量産に向けた取り組みを行っている。Gビット級のMRAMの実現にはどのような課題が存在しているのか,産総研のエレクトロニクス研究部門副部門長である安藤功兒氏ならびに同部門スピントロニクスグループ 研究グループ長である湯浅新治氏に話を伺った。

新型TMR素子

MRAMは,絶縁体を二つの強磁性体で挟んだトンネル磁気抵抗(Tunneling Magneto Resistance:TMR)素子を用いることでデータの書き込みおよび読み出しを行うメモリである。同素子のスピンの向きが変化することで,抵抗に変化が生じ,それを検出することで素子に蓄えられているビット情報の読み出しが行われる。また,スピンの向きは外部から磁場が加えられることにより変化するため,0と1のビット情報を書き換えることが可能である。

1. MRAMの構造

図1 MRAMの構造その1
図1 MRAMの構造その1  出所)産総研資料

MRAMは,ワード線とビット線と呼ばれる非常に細い電線が,碁盤目のように縦と横の線として張り巡らされており,1ビットの記憶を行うTMR素子がグリッド上に縦線と横線の交点に配置される構造をしている。特定のTMR素子へのアクセスは,その素子に繋がった縦線と横線であるワード線およびビット線に通電することによって行われる。

2. トンネル障壁材料の変更

図2 MRAMの構造その2
図2 MRAMの構造その2  出所)産総研資料

MRAMは,これまで磁性薄膜の電極が多結晶であり,またトンネル障壁の材料として酸化アルミニウム(Al2O3)を用いてきた。Al2O3は常温ではアモルファス物質であるため,原子の並び方が不規則であり,電流が直進し難いという性質を持っていた。この性質のため,従来のTMR素子の磁気抵抗は70%程度が上限となっており,MRAMの大容量化を阻んできた最大の要因とも言われてきた。

産総研では,この限界を打破するためにトンネル障壁の材料として酸化マグネシウム(MgO)を採用した新型TMR素子を開発した。MgOは常温で単結晶状態を実現することが可能な材料である。単結晶は原子が規則正しく固定した状態で配列されるため,電流が流れる際に電子は散乱されずに直進することが可能となる。

3. 素子の特性と高出力化の実現

Gビット級MRAMを実現するための高集積化にはTMR素子の出力電圧を上げることが重要である。出力電圧向上のためには,磁気抵抗の向上および電圧特性の改善を行う必要がある。MgOはトンネル障壁を平坦化することで,電子の波動性が向上し,TMR素子の電圧特性が改善されることが湯浅氏らの研究で確認されており,出力電圧550mVを達成している。

また,同氏らのグループはアネルバと共同研究を行うことで,研究で用いられる超高真空蒸着法から異なるスパッタ成膜法を用いての新型素子の製造を実現している。スパッタ成膜法により作成された新型TMR素子は磁気抵抗比300%(室温)を実現しており,Gビット級MRAMに要求される特性を十分に満たすものとなっている。

なお,新型TMR素子によるMRAM開発は,産総研が研究結果を発表した後,世界中で研究が進められており,すでに4Mビット品の提供を開始しているFreescale Semiconductorや16Mビットの試作品を開発したIBMなどもMgOによるMRAMの研究を行っているという。

現実味を帯び始めたGビットMRAM

図3 従来型TMR素子と新型TMR素子の比較
図3 従来型TMR素子と新型TMR素子の比較
出所)産総研資料

産総研により開発された新型TMR素子であるが,その素性は非常に良く,Freescaleが発表した資料では8インチウェーハの面内ばらつき5%以内が確認されており,Al2O3以上の値を実現しているという。また,読み出しも従来以上の速度(3ns)程度を実現しており,高速性に関しても十分な性能を持っている他,耐熱性も400℃程度まで問題ないとしており,300℃程度が限界であったAl2O3と比べて高温プロセスが用いられる半導体製造プロセスへの適用も容易になるとしている。

1. 今後の課題は書き込み性能の向上

しかし,新型TMR素子でも未だ解決されていない大きな課題が存在している。それは書き込み性能の向上である。従来の縦線と横線の2本を使用した書き込み/読み出し方法「電流磁界反転法」は,微細化すればするほど大きくなる反磁界に対抗するためにより大きな電流を必要とするという問題があり,低消費電力の点から改善する必要が生じていた。これは構造上の問題のため,新型TMR素子になっても変わることがないMRAM特有の欠点となっていた。

この欠点を克服するため,湯浅氏らのグループではTMR素子に直接電流を流すことで,電子が持っているスピンの作用により磁化を反転させることで,読み出し線のみで書き込みも同時に行う方式「電流注入磁化反転法(スピン注入磁化反転法)」によるMRAMの実用化を研究している。ただし,この方法でも書き込みに必要な電流密度が2×106〜3×106A/cm2と大きいため,アドレス用のトランジスタ(MOS-FET)に流せる最大電流値(0.1mA)を超えてしまうという大きな課題が残されている。Gビット級MRAMを実用化するためには少なくとも後1桁の電流密度低減が必要であるとしているが,仮にそれを実現したとしても,書き込み電流と読み込み電流とのマージンがきちんと確保できるか,書き換え回数が1015回実現できるか,といった問題が残ることとなる。

スピン注入反転法によるMRAMの製造は,現在,国内外問わずMRAM研究における最大の関心事となっているといっても過言ではなく,古くから同方法の研究を行っている米コーネル大学などが実用化を目指して研究を進めている。産総研では新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が提唱する2010年での1GビットMRAM量産を実現するためには,ここ1〜2年の間が勝負所と見ており,新型TMR素子開発で培ったノウハウを元に他に先んじて実現へ向けた開発を進めて行く構えである。


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