注目度高まる燃料電池 普及拡大に向けた課題は何か
クリーンエネルギーの次代を担う燃料電池
競合・既存テクノロジーの技術革新で苦戦
本格普及に向けて最大の鍵はコストダウン
清水聡/調査部
燃料電池は,従来の内燃機関などに比べて効率が高く,作動時の音も静かで,大気汚染の原因となるNOx,SOxなどの排出量が少ないという特徴を有していることから,将来的には自動車エンジンに替わる可能性があり,また,住宅用などの分散型電源や熱供給システム,ノートPCなどの電源としての利用が期待されている。さらに,燃料電池はCO2の排出を大きく低減することが可能な技術であり,近年の地球温暖化問題の解決に向けた有力なツールとなる。国際的にも,燃料電池は大きな可能性を有する次世代エネルギー技術の一つとして注目され,その開発に向けて激しい競争が行われているとともに,産官学が一体となった取り組みも行われている。
燃料電池自動車の動向
1. 概要
国内では,主要自動車メーカーや国家プロジェクトにおいて,これまで,燃料電池システム技術・電池技術開発に積極的に取り組んできており,自動車メーカーが独自開発の燃料電池自動車を実用化するなど,産学において世界最先端の技術を有していると言える。その一方で,本格的な普及の拡大に向けては,現在のガソリン自動車と比較して,クリアすべき技術課題も多いのが現状である。
課題としてまず挙げられるのが,コストである。1台1億円とも言われる現状では,100分の1程度のコストダウンが不可欠である。燃料電池システムは,実用目標コストである4000円/kWの3〜5倍程度まで到達していると思われるが,今後,コスト要因である白金触媒の使用量低減や代替のための触媒技術の開発が必要となる。一方,耐久性については,10年以上の耐久性実現に向けた電解質膜の開発が求められる。さらに,ガソリン自動車と同等の航続距離を可能とするため,燃料である水素をコンパクトかつ低コストに貯蔵するための技術開発も必要である。
2. 国内主要自動車メーカーの動向
表1 日本における新エネルギー導入目標(原油換算)

出所)経済産業省
(1)トヨタ自動車
トヨタ自動車では,燃料電池ハイブリッド車「トヨタFCHV」を02年12月から世界に先駆けて,日米で限定販売をスタートさせた。05年6月にはトヨタFCHVを一部改良し,燃料電池自動車として国内で初めて型式認証を取得し,同年7月1日から限定販売を開始している。新たに自社開発した35MPaの高圧水素タンクを搭載し,従来型のタンクに比べて水素貯蔵量を10%増加させ,航続距離を300kmから330kmへ延長させている。信頼性や耐久性を高め,高効率と静かでなめらかな走行性能を両立している。
一方,本格実用化に向けては,燃料電池で生成された水がスタックおよび補機部品の中で凍結する問題をクリアし,−30℃で始動・走行できることを確認。さらに,航続距離の延長については,07年9月に東京−大阪間の長距離走行を実施し,途中,水素を充填することなく約560kmの完走も可能としている。
(2)日産自動車
日産自動車は,96年にFCV技術の開発に本格的に着手,99年5月から車両実験(メタノール改質式燃料電池自動車「ルネッサFCV」による走行試験をスタート)も開始した。その後,01年には北米の公道,02年には国内の公道での走行実験を経て,高圧水素式燃料電池自動車「X-TRAIL FCV」を製品化した。同車は,環境負荷物質を排出しないクリーンな動力を搭載。03年モデルをベースに自社開発スタックを搭載し,さらなる改良を加えた最新モデルを05年12月に発表している。そして,06年4月には,神奈川県と横浜市に納車。さらに,07年2月にはハイヤー仕様の燃料電池自動車を神奈川都市交通に納車している。
(3)本田技研工業
本田技研工業は,02年12月に燃料電池自動車「Honda FCX」で究極のクリーンカーへの扉を開いた。同燃料電池自動車では,同社独自のパワーシステムを採用している。主電源の燃料電池と,加速時などに補助電源として働くウルトラキャパシタ,そして電気の流れをコントロールし,モータ出力やエネルギー量を最適化するPCUからなるシステムを搭載することで,ハイレスポンスでパワフルな走りを実現している。
なお実際の走行では,(1)発進・加速時には,燃料電池に加えてウルトラキャパシタからの電力もモータに供給。スムーズかつパワフルな発進・加速をもたらす,(2)クルージング時は,ウルトラキャパシタの力を必要とせず,燃料電池からの電力だけで走行,(3)減速時には,モータがエンジンブレーキのように働き,電気を発生。それをウルトラキャパシタに蓄電,(4)停止時には,オートアイドルストップシステムによって,燃料電池スタックの出力を停止し,燃料消費を抑制する。
定置型燃料電池
1. 概要
燃料電池には,電解質の種類によって,固体高分子形燃料電池(PEFC),固体酸化物型燃料電池(SOFC)などがあり,それぞれの技術に応じた用途開発が必要である。なお,すでに実用化段階にある技術としては,リン酸形燃料電池(PAFC)やアルカリ電解質形燃料電池(AFC)などがある。日本では,着実な導入支援により,すでに約2200台のPEFCが市場導入されている。
PEFCは,薄膜の固体高分子膜を電解質として用いる燃料電池で,作動温度が常温から90℃と低温で,起動停止や取り扱いが容易である。また,出力密度が高いため小型化も比較的容易である。なお,家庭用コジェネの他に,モバイル機器や自動車用としても開発されている。
2. 国内主要メーカーの動向
(1)荏原製作所
荏原製作所は,4万時間の耐久寿命を持つ新たなスタック「MK1030 V3」のプロトタイプ機の開発が完了し,Ballard Power Systemから荏原バラードに出荷した。同プロトタイプスタックは,荏原とBallardの両社が締結した「スタック開発契約」に基づいて開発されたもので,荏原バラードが08年度以降の商用機市場投入に向けて開発を進めている4万運転時間の耐久性,高い信頼性,小型軽量化,低コスト化を実現する家庭用燃料電池システムの商用機に搭載される。
(2)新日本石油と三洋電機
新日本石油と三洋電機は,燃料電池事業に関する新会社「ENEOSセルテック」を設立した。地球環境保全への期待が高まる中,普及が期待される定置用燃料電池については,国の助成事業として05年度から実施されている「定置用燃料電池大規模実証事業」が08年度で終了予定であり,09年度からは本格販売が始まるものと想定している。
このような状況の下,両社が将来にわたって燃料電池事業分野の市場で主導的な地位を確保するためには,開発のスピードアップ,システムの性能および信頼性の向上,製造効率最適化によるコストダウンが重要と判断し,合弁により新会社を設立するのが最適であるとの結論に達したとしている。
マイクロ燃料電池の動向
1. 概要
ノートPC・PDA・携帯電話などの携帯機器は,その高性能化・高機能化に伴い,消費電力が年々増大しています。しかし,現在主流として用いられているリチウムイオン電池の容量はすでに限界に達しつつあるため,より高い容量のエネルギーデバイスの開発が急務となっている。携帯機器への利用を想定したマイクロ燃料電池は,燃料にアルコールなどを用いるもので,リチウムイオン電池に比べて重量あたり5倍から10倍のエネルギーを蓄積することが可能である。また,マイクロ燃料電池では,移動中など電源が使用できない状況でも燃料を注ぎ足すだけで安価に機器が連続して利用できるようになるため,ユーザーの立場からも利便性が大きく向上する。
規制緩和に関しても,07年1月から航空旅客機内への燃料電池用メタノールカートリッジおよび燃料電池使用携帯機器の持ち込みが条件付きで許可されることとなり普及に向けた,下地が出来上がりつつある。
2. 国内主要メーカーの動向
(1)カシオ計算機
カシオ計算機は,ナノフュージョンの開発した素材を用いて,0.5ccの小型サイズで高圧を維持しながらメタノールを高精度で送液できる,携帯機器向け改質型燃料電池に最適化した「EO(Electro-Osmotic,電気浸透)ポンプ」を開発した。今回開発したEOポンプは,燃料電池の小型化に不可欠な送液用マイクロポンプ。電気浸透材料(シリカなどの誘電体。液体に触れると電位を発生する)で構成された管状の形をしており,外側から電圧をかけることで内部の液体を動かす。小型でありながら高圧での送液ができ,回転体がないため動作が無音で,脈動などの乱れも少ないなどの特徴を備えている。
(2)東芝
東芝は,04年6月に発表した世界最小レベルの燃料電池の実用化に向け,電子機器に組み込む小型燃料電池ユニットを開発し,携帯音楽プレーヤの試作機を用いた動作検証を05年から開始している。同製品は,出力が100mWと300mWの燃料電池ユニットで,それぞれシリコンオーディオ(メモリ内蔵型)プレーヤ,HDDオーディオプレーヤに組み込まれる。100mW型は,横23mm×縦75mm×厚さ10mmと板ガム程度のサイズで,内蔵タンクに3.5mlの燃料を注入して約35時間駆動できる。一方の300mW型は,横60mm×縦75mm×厚さ10mmのサイズで,内蔵タンクに10mlの燃料を注入して約60時間駆動できる。なお,プレーヤには動作検証用の部品が含まれるため,最適な製品設計を行えば大幅な小型化が可能としている。
(3)富士通
富士通研究所は,04年に30%の高濃度メタノール燃料が使用可能な燃料電池の材料技術開発に成功し,これを用いた携帯機器向けプロトタイプシステムを開発した。同技術により,小型軽量化に適したパッシブ型のマイクロ燃料電池の高容量化が可能となり,ノートPC・PDA・携帯電話などの携帯機器の長時間動作を実現する。
開発した技術の具体的な内容は,燃料電池のMEAにおいてメタノールクロスオーバーを低減する材料技術。メタノール透過速度が低い芳香族炭化水素系の固体電解質材料の表面に高活性な白金系ナノ粒子触媒を高密度に固定化したメタノールブロック性の電極触媒層を形成する。これにより,フッ素樹脂系材料を用いた従来のMEAに比べてトータルのメタノールクロスオーバーを10分の1に低減可能となる。
おわりに
燃料電池は,時代を担うクリーンエネルギーシステムとして大きな期待が寄せられている。しかしながら,太陽電池などの競合技術,リチウムイオン電池などの既存技術における急激な技術革新により,製品の市場投入が後倒し傾向にある。大手が開発を手掛け,技術で先行する日本だが,マーケット不在の現状では,製品化に二の足を踏むメーカーが多い。しかしながら,標準化などの観点からみると,それでは海外勢に主導権を握られてしまうとの懸念の声も聞こえる。100%の製品でなくてもいい,リリースしてからユーザーの声を反映して改良を加え,新市場を創出していく,燃料電池(特にエレクトロニクス機器向け)ではそのようなビジネスモデルで推進していくことも必要なのではないだろうか。