注目度高まる燃料電池 普及拡大に向けた課題は何か
マイクロ燃料電池の最新動向
標準化・規制緩和に向けた世界レベルの動き
競争が激化する中で,日本は主導権を握れるか
清水聡/調査部
携帯機器では,高機能化・高性能化により,より長時間の使用を可能とするバッテリのニーズが高い。その解の一つとして注目を集めるのが,マイクロ燃料電池である。本稿では,産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 主幹研究員 兼 マイクロ燃料電池連携研究体長の宮崎義憲氏に,マイクロ燃料電池の普及拡大に向けた最新動向を伺った。
はじめに

▲東芝の小型燃料電池(試作品)
▲カシオ計算機の高性能セルスタック
産業技術総合研究所 ユビキタスエネルギー研究部門 マイクロ燃料電池連携研究体では,マイクロ燃料電池の普及拡大に向けて,電池性能試験方法,環境・安全試験方法の確立,標準化に取り組んでいる。
携帯用燃料電池は,ノートPC,PDA,携帯電話などの携帯機器を長時間稼働させることができる電源として,製品化が期待されている。日本をはじめ,欧米,アジアの各地域で開発が活発に進められており,その実用化・普及に向けて,熾烈な競争状態にある反面,コンシューマへの不要な混乱を避けるためにも協調が不可欠の状態にある。
マイクロ燃料電池を本格的に普及させるためには,利用者の安全と利便性の確保を考えて,(1)設計,製作,設置および保守管理を行う上での技術的事項を定めること,(2)積極的に標準化を推進すること,(3)適切な規制緩和を図ること,などが必要である。その目的に向けて同研究体では,安全性評価技術の確立,性能評価試験などを行い,その成果を関係機関と緊密な連携を取りながら,マイクロ燃料電池に関する安全性・性能試験方法などを国際・国内標準化に反映させることを目標としている。なお,具体的な関係機関としては,国内では日本電機工業会(JEMA)が中心となって,電子情報技術産業協会(JEITA),電池工業会と連携しながら,標準化を進めるとともに,国際機関としては98年に国際電気標準会議(IEC)の専門委員会としてTC105委員会が98年に設立され,様々な策定が行われている。
規制緩和に向けて
元々,燃料電池の規制緩和については,長時間のフライトなどの際,機内でノートPCの使用を可能にしたいというニーズから,緩和に向けた動きがスタートした。燃料電池の燃料となるメタノールは,いわゆる危険物に分類されており,機内に持ち込むことはできない。そこで,数年前から様々な取り組みがなされ,ようやく07年1月1日から,条件付きではあるが,航空機客室内への燃料電池使用モバイル機器およびメタノールカードリッジの持ち込みが解禁となった。なお,その際のステップを見てみると,国連の危険物輸送専門家会議承認の後,国際民間航空機関,国際民間航空輸送協会の承認を得るという流れとなっている。
普及が先か,規格が先か

図1 マイクロ燃料電池連携研究体における取り組みの概略図
先述のように,規制緩和の動きが少しずつ進展しているマイクロ燃料電池であるが,その燃料となるメタノールや水素を持ち運ぶカートリッジの規格化・標準化は,なかなか進んでいないのが現状である。「その最大の要因は,開発と標準化が同時進行で行われている点にある」と宮崎氏は指摘する。通常,何らかの製品の標準化を進める場合には,「ものが先にありき」で進む。しかしながら,マイクロ燃料電池の場合には,商品としてリリースされ,確立しているものが今のところない。そのため,標準化における材料,サイズ,構造などの規格につていは,将来の開発を阻害することがないようなものであることを前提としなければならないのだ。
なお,カートリッジの規格化・標準化に関する具体的な進捗については,TC105委員会 WG10において,関係各国によるCVD(Committed Draft for Voting)が行われている段階にあるという。08年6月頃をメドに締め切られ,これにより大まかな指針が示されることになる。
一方,宮崎氏が最も重要と語るのが,WG8で検討が進められている燃料電池の安全に関する技術事項だ。WG10でのカートリッジの指針につていは,今のところメタノールのみを対象としている。しかし,WG8では,メタノール,ギ酸,水素,メタノール(改質型),包摂化合物,ボロンハイドライド,ブタンなど幅広く対象材料としている。
日本が主導権を握れるか
マイクロ燃料電池関連する開発は,世界各国で行われているが,「ビジネスに関する感覚に大きな違いがある」と宮崎氏は指摘する。日本では,日立製作所,東芝,NEC,富士通,カシオ計算機などの大手電機メーカーが手掛けているが,海外ではベンチャー企業の参入が多い。例えば,大手企業では,一つの事業として取り組むにはある程度の市場規模が見込まれなければ難しい。携帯電話が巨大アプリケーションと目されているが,現状は競合技術であるリチウムイオン電池の性能向上もあり,そう簡単に進んでいない。
一方,海外のベンチャー企業では,燃料電池関連の売り上げがそのまま自社の業績を左右するため,たとえニッチな市場であっても,商品化にゴーサインが出せる。製品が先に市場に出回れば,当然,先鞭のメリットで各種規格のデファクトとして認知される可能性が高い。製品がなければ進まない燃料電池市場。技術優位性のある日本に,是非とも主導権を確保してもらいたい。