国内半導体工場・付帯設備動向
半導体生産ラインの展望
最先端が続々登場
05年の国内半導体工場は,最先端の微細プロセスの導入,200mm/300mmウェーハ対応ラインの増強などの発表が相次いだ。松下電器産業は,同社魚津工場で進めてきた300mmウェーハ対応の新棟において,65nmプロセスを採用した民生向けシステムLSIの量産を開始した(05年10月)。65nmという超微細プロセスは,ルネサステクノロジと共同開発したプロセスに加え,独自の超解像技術などを採用することで実現した。
一方,東芝と岩手東芝エレクトロニクス(岩手東芝)は,岩手東芝に200mmウェーハ対応の生産ラインを新設し,LCDドライバおよびパワーMOSFET の生産を行うことを決定した(05年7月)。携帯電話などのモバイル機器の液晶画面駆動用LCDドライバおよび家電やPCなどの民生機器向けの電源の電流 制御などに用いられるパワーMOSFETの需要増に対応するため,岩手東芝の新製造棟のクリーンルーム化を実施し,LCDドライバやパワーMOSFET用 の量産ラインを新設する。
その他,多くのメーカーから設備投資計画の上方修正が発表された。しかしながら,ここで特に注目を集めたのがメモリの生産ライン増強だ。東芝はフラッシュ メモリを生産する300mmファブ(四日市工場)などを増強し,05年度の設備投資額を2250億円に増額。エルピーダメモリも投資額を1900億円に増 額し,シェアの拡大を狙う。メモリは,基本的に生産量がマーケットシェアに直結するデバイスである。各社ともSamsung Electronicsに対抗すべく,生産キャパシティの拡大で猛烈な追い上げを見せている。
HALCAミニファブ

図1 HALCAプロジェクトのミニファブ標準モデル
昨今,投資効率の最大化,生産効率の向上という声をよく耳にする。そして,アプリケーションの多様化に伴う多品種少量生産を効率的に行い,デバイスメーカーの投資リスクを軽減するファブとして「ミニファブ」というコンセプトが提案されている。
HALCAプロジェクトが提案したミニファブは, 0.13μm,6層配線,ロジックプロセスを100ロット/月生産するのに必要な標準仕様のクリーンルーム。従来のメガファブでは,基本設計から操業開始まで約16か月を必要としていたが,同ミニファブでは,標準プランの採用による設計期間の短縮,標準仕様の資材・機器の採用による施工期間の短縮などで,半分の8か月での操業が可能となる。また,投資リスクを抑えた独立型,市場動向に応じたクリーンルームの増設も考慮したモデルプランであり,段階投資が可能なクリーンルームとなっている。さらに,HALCAプロジェクトで開発された装置,環境ボックスを使用することで,従来の装置でミニファブを構成した場合と比較して,装置電力量およびクリーンルーム空調電力を60%削減することが可能となる。
一方,装置レイアウトのコンセプトについては,装置搬入,メンテナンスを考慮した上で,クリーンルーム面積が最小となるレイアウトとなっている。嫌振対策が必要な装置をまとめて,嫌振エリアを設定。また,クリーンルーム外周にスペースを設けて,メンテナンス時の段取りエリア,クリーンルーム増設時のバッファゾーンとして活用できるようにしている。さらに,プロセスフローから装置間のアクセス回数を考慮して,ロット搬送距離が短くなるレイアウトがなされている。
生産ラインの再活用
90nm,さらには65nmノードのプロセス技術が採用され始めた半導体製造では,一般レベルである0.18μmにもついていくことができず,新たなファブを諦めてしまったデバイスメーカーも数多く存在する。
また,最先端の製造ラインを有しているデバイスメーカーにおいても,世代が古くなった工場が国内には数多く見受けられる。それらのラインは,早期に閉鎖し,資源の選択と集中を図るのも一つの選択肢であり,その分,ファンドリを活用することで,最先端の製造プロセスを採用した製品を導入することができる。
一方で,駆動系デバイスなどの,最先端ファブでは物理的に製造が難しいデバイスの製造にシフトすることも,もう一つの選択肢として挙げられる。物理的に大きな駆動能力が必要とされる領域では,数十Vから数百V,あるいはそれ以上といった電圧に耐える必要がある。そのようなデバイスは,物理的な寸法自体が大きく,絶縁膜や配線などの膜も厚いものが必要であるため,微細なトランジスタを製造する生産ラインには向かない。その他,様々な選択肢が模索されているが,古い製造ラインの多くは,微細化に向いていない製品,アプリケーションを見出すことで活路を開いている。しかしながら,そうした市場はニッチであり,大きな成長の可能性を期待することは困難である。
半導体工場の地震対策
“地震大国” 日本
95年の阪神大震災や05年の福岡県西方沖地震に代表されるように,日本では数多くの地震が日常的に発生しており,人命ばかりでなく工場の生産設備などの資産にも被害を与えている。さらに世界の陸地面積のわずか0.25%でしかない日本で,全世界で発生するマグニチュード6以上の地震の22%が発生している。
04年10月に発生した新潟県中越地震では,新潟三洋電子が深刻な被害を受けた。同社の親会社である三洋電機による当時の発表では,被害総額は503億円にのぼり,内訳は機械・その他が184億円,棚卸資産が46億円,復旧費用等が270億円,設備投資が3億円となっている。さらに業績への影響として, 510億円の売り上げ減少,370億円の営業利益減少があげられた。 新潟三洋電子の場合でも,被害額のうち,機械の被害が比較的大きな割合を占めている。半導体やFPDなどの電子デバイスを製造する工場では通常,工場内の生産装置のコストが総投資額の60〜80%ほどを占めている。言うまでもなく,半導体製造装置などの精密機械は地震による被害・影響を非常に受けやすく,電子デバイス工場においては,建物への被害以上に生産施設への被害が深刻な事態を招きかねない。 こうした中,ゼネコン各社は半導体工場などを対象として,「免震構造」の提案に注力しており,独自色を打ち出している。
鹿島建設は05年4月,半導体工場の地震リスクを軽減する「多層階免震工場」を開発,発表した。40mを超える大スパンのクリーンルームを多層化し,工場全体を免震化する多層階免震工場は,同社が特許を保有する「カテナリーアーチ構法」によって実現している。同構法は,ちょうどアーチ橋の上下を逆さまにしたような「懸垂曲線構造」を有しており,高い強度を誇る。またトラス梁と呼ばれる梁を用いた構造と比較した場合,使用鉄骨量を約20%削減できる点も大きな特徴だ。
同構法では,クリーンルームの床下から下のフロアの天井裏スペースまで,フロア間の空間を最大限に活用してアーチを構成し,必要とされる剛性(物体が「曲げ」や「ねじり」などに対して疲労・破損に耐える力)を確保する。また同構法では,クリーンルーム床下のリターンプレナムと呼ばれる部分に斜めの柱や梁が存在しないため,ダクト配管やケーブル類の配置およびメンテナンスも容易である。通常,半導体工場などの施設は,クリーンルーム棟,エネルギー棟,事務所棟といった具合に各施設が分割されていたり,敷地内に分散していたりする場合が多い。ところが多層階免震工場では,クリーンルームを中央に事務エリアなど他の施設を周辺に配置し,生産に必要な施設を同一の建物内に効率よく配置する。そして建物全体を免震化し,被害の大幅な軽減を図るコンセプトを採用している。
同社がモデル工場で行ったシミュレーションによれば,阪神大震災に相当する震度6強以上の大地震が発生した場合でも,クリーンルーム床部分の加速度値は,生産装置が損傷を受けない100〜200gal程度に抑制されている。例えば重量500kgの装置の場合,自重のおよそ1/5〜1/10の重さ,つまり 50〜100kgに揺れを抑えることができることとなる。 さらに電子デバイス工場などの生産施設は,地震発生当日の被害とともに,操業が中断することによる被害も大きなものとなるが,こうした被害も含め,トータルの被害額は非免震工場の1/100以下になると,同社は試算している。また免震化することによるコストアップは,建物,生産装置,ユーティリティを含めた初期投資額の1%未満であるという。
多層階免震工場は,日常的な効率の向上にも貢献する。電子デバイス工場では日常的な微振動の低減が重要な課題であるが,多層階免震工場では剛性が高く,微振動の制御に適した「すべり支承(支持装置の一つ)」と,地震後に建物が元の位置に戻る復元能力が高い免震装置である積層ゴムを組み合わせ,最適な配置を可能としている。また電子デバイスの製品サイクルの速度に対応できるように,約6か月の短工期も実現している。なお同社の多層階免震工場は,ローム浜松の工場などに導入されている。
大成建設のMiC免震システムは,建造物の基礎部分に免震層を設け,地震などの揺れに対して,各フロアの揺れを1/3〜1/10程度に低減する。また MiC(Micro-vibration Controlled)の名が示すとおり,地震が発生していない通常時には,従来の耐震型電子デバイス施設と同様に高い剛性を確保し,さまざまな機械の振動などに起因する微振動の増幅を抑える。従来の免震構造は,免震層のゴムが柔らかく変形することで地震の力を減らすものだが,通常時でも建屋内の機械類の振動によって工場全体が揺れてしまうので,微細加工を行う半導体工場には採用されていなかった。同社のMiC免震では,こうした課題が解決されており,すでに富士通の三重工場に導入されている。 また同社によれば,ある事業所が同システムを導入した場合,海外顧客に対するアピール効果も期待できるという。なぜなら,日本が地震頻発国である事実は世界に知られており,地震被害を懸念する傾向もあるからだ。そして製品供給を受ける人びとが最も心配する点は,BCPの確保だ。
BCPとはBusiness Continuity Planの略で「事業継続計画」などと訳される。世界中のデバイスメーカーから供給を受けながら,自らのビジネスを展開するシステムメーカーは珍しくないが,もしたった一つの部品でも供給がストップした場合,ビジネス全体が停滞してしまう。半導体製造においては,インフラ普及率や政情不安と同様に,地震も一つのカントリーリスクとなっている。 建物全体の免震に加え,同社ではクリーンルーム内の部分床免震技術も開発している。製造装置などが設置されるフリーアクセスフロアを部分的に免震化するもので,アウトガスの発生しない部材で構成されている他,新築時だけでなく,既存建屋に設置されている特定の装置を守るための導入も可能である点も特徴となっている。 また半導体工場では,クリーンルームの天井にFFU(ファンフィルタユニット)やその他設備機器が設置されていることが多い。特にFFUの数が多い場合は,天井に大きな重さが加わることとなる。
従来のシステム天井の場合,「吊りボルト」と「ブレース(筋交い)」だけで天井を支えていたため,大きな揺れが起きた際は,ブレースが切れたり,吊りボルトが曲がったりして,天井の一部が落下する危険性があった。同社の「制振システム天井(ダンパー式制振機構)」ならば,オイルが入ったダンパー(サスペンションの一種)を天井に据えつけることで地震のエネルギーを吸収し,天井部分の破損を防止する。同社の実験によれば,地震に配慮してあるとされる従来型システム天井の最大変位が25cm以上となった揺れに対し,制振型システム天井の最大変位は,ほぼ1/4となる6cmにとどまった。また制振システム天井も既存設備への導入が可能である。
竹中工務店は05年8月,半導体工場向けとして免震構造「ビスカス免震」を発表。同構造はデンソーの幸田製作所ウェーハ工場の新築工事(地上3階建て,延床面積2万6000m2,クリーンルーム面積4000m2)に適用され,06年初頭の完成を目指して建設が進められており,10年度をメドに新工場で 200mmウェーハ1万枚/月の生産を実現する予定。 ビスカス免震では,地震の揺れを建物に伝えにくくする「積層ゴム」と,揺れの大小に関わらず高い振動エネルギー吸収性能を持つ「粘性体ダンパー」の二つの免震装置を組み合わされている。なおビスカス免震の“心臓部”ともいうべき粘性体ダンパーは,同社およびオイルレスベアリングの製造・販売などを行うオイレス工業が共同開発した免震装置。
ビスカス(viscous)とは,“粘り気のある,粘性の〜”といった意味で,ビスカス免震はブタン系高分子材料などを含んだ粘性体によって地震のエネルギーを吸収,熱に変換し,上部の建物の揺れを防ぐ。 粘性体で満たされた容器の中に,建物を支える柱の底部が浸っているといったイメージで,微小な振動から大規模な地震にまで,振動吸収効果を発揮する。 さらに特筆すべきは,震度3〜5の中小地震に対する免震性能だ。震度3〜5の揺れに対して,従来の鋼材系のダンパーやすべり支承を用いた免震構造と比較した場合,より大きな免震効果を得られる。 そもそも免震構造は,従来からの耐震構造と異なる点が多い。耐震構造とは,柱梁の剛性や強度を確保することで建物そのものの耐性を高める構造を指す。例えば,揺れの激しい電車の中で,両足を踏ん張って立っている人のような状態だ。
一方,免震構造は,前述の積層ゴムや粘性体ダンパーなどの免震装置によって建物を支え,どんなに地面が揺れても,上部の建物はゆっくりとしなやかに揺れる構造を指す。例えば,電車内でスケートボードに乗りながら,バランスを保っている人のような状態だ。いわば免震構造の建物は,地震の力を「柳に風」のように受け流すわけで,生産施設内にある各種の高価な半導体製造装置へのダメージも大幅に低減される。 積層ゴムや粘性体ダンパーなどの免震装置には三つの役割がある。第1は建物の重さを支えながら水平方向に大きく柔らかく変形させる役割,第2は建物をバネの力で元の位置に復元する役割,第3は地震エネルギーを吸収し過大な変形を防止する役割である。積層ゴムだけでも天然ゴム系積層ゴム,鉛プラグ入り積層ゴム,高減衰積層ゴムなどのバリエーションがあるため,建物ごとの特徴に応じて,最適な免震装置を組み合わせて使用される。 また,あらゆる建物は固有の周期を持っている。周期とは揺れ1往復に要する時間のことで,ほぼ建物の高さに比例して長くなる。例えば,短く吊られたブランコよりも,長く吊られたブランコの方が1往復するのに時間がかかることと同様である。建物の場合,高さ30m以下(中低層建物)が短周期,高さ 30〜60m(高層建物)が中周期,高さ60m以上(超高層建物)が長周期とされる。なお高層建物の固有周期は1〜2秒。つまり揺れ1往復に1〜2秒かかるということだ。 そして,固有周期に近い波長の地震に見舞われれば,その建物は地震と共振してしまい,大きな被害をもたらす。一般的に地震波には1秒以下の短周期の波のエネルギーが多く含まれているので,中低層建物や高層建物は共振しやすい。一方,建物の固有周期が長ければ,地震のエネルギーは減少されるわけで,超高層建物の耐震性が高いとされる一つの根拠にもなっている。
ビスカス免震をはじめ,免震構造は「意図的に建物の周期を長くする」構造であり,比較的に低い高さの生産施設には適しているといえる。 ビスカス免震に代表される同社の技術力は,その多くが竹中技術研究所によって生み出されている。同社の研究部門である同研究所は,53年に東京および大阪に開設された同社の研究室を母体としており,現在は千葉にある。同研究所には,阪神大震災クラスの地震を再現できる大型振動台や地下空間施設の研究・開発などのために設けられた世界最大級の遠心模型実験施設など,数多くの研究設備が整っており,さまざまな技術が実験・開発を経て実用化されている。 例えば,アクティブ微振動制御装置の「TACMI」も,同研究所によって開発された。同装置は,精密環境において有害な床面の振動を最高で1/100に低減するもので,89年に業界で初めて発売されて以来,半導体や電子デバイスなどの生産施設に対する多数の納入実績を誇る。また高い清浄度が要求される最先端クリーンルームに不可欠となる,制御幅±0.02℃を実現した超精密温度制御空調装置といった装置もある。 同社によれば,免震構造のレトロフィット(既存の建物への機能追加)技術の研究も進んでおり,免震建物がより身近な存在となる日も近いという。
地震対策の今後
現在のところ,本格的な免震構造を持つ半導体工場は,ローム浜松や富士通などに限られているが,地震リスクへの意識の高まりなどからも,今後,免新工場の新設および既存工場の機能追加が増える可能性は大きい。さらに00年には,それまで建築材料として認められていなかった免震装置が「免震材料」として認められ,建設に関わる手続きも大幅に簡略化されている。こうしたことが追い風となって,半導体工場における地震対策は活性化すると思われる。
【この記事は「特別調査レポート 2006 国内半導体工場・付帯設備動向」より抜粋】