有機デバイスの現状と将来展望
−有機EL,有機TFT,有機太陽電池などの最新動向を探る−
05年6月21日,学士会館(東京・神田)にてプレスジャーナル主催の半導体/FPD特別セミナー「有機デバイスの現状と将来展望」が開催された。会場では,有機デバイス技術のトレンドをはじめ,有機トランジスタ,有機EL,液晶有機半導体,有機LED,有機太陽電池などの最新動向について幅広く講演が行われた。
有機デバイスの将来展望
有機デバイス技術の現状と将来展望
大阪大学 横山正明氏

大阪大学 横山正明氏
横山氏は,実用化あるいは実用デバイスをターゲットとした有機半導体電子デバイスとしては電子写真感光体デバイスが挙げられ,有機材料が電子デバイスとして初めて使用されるようになったという。 そして,有機感光体デバイスが成熟期に入り,本格的に研究開発が始まった有機ELデバイス,さらに有機ELの実用化とともに電子ペーパーなど有機半導体の次のターゲットとして登壇してきたのが有機トランジスタであると説明する。
また,有機半導体としての導電性を利用しているというよりむしろ,もともと絶縁性に近い電荷輸送層に電極もしくは光注入電極からホールまたは電子いずれかを注入することで動作しているとみなすことができるとし,これがSi半導体デバイスと大きく異なる点であり,高性能有機半導体の開発とともに有機電子デバイス独特の絶縁体類似の有機半導体への電荷注入方法の開発が望まれるとした。
有機デバイスの将来展望
有機半導体材料とトランジスタ技術の現状と将来展望
京都工芸繊維大学 堀田収氏

京都工芸繊維大学 堀田収氏
有機トランジスタの課題について堀田氏は,n-型有機半導体として優れた特性を示す材料が限られているため,新規材料の開発が急務であるとした。また,ドープ状態の安定化などをクリアし,良好なp-n接合を構築することが求められるとした。 また,大電流,高速動作トランジスタの実現に向けては,FETにおける電荷の注入はゲート絶縁膜からなるキャパシタの充電によってなされるため,ショットキ障害の形成に付きまとう電極材料に対する制約は大きな問題にならないとした。ゲート電極に印加する電圧に比例して電荷が注入されるので,電荷・電流密度を増大させるには有利であり,優れた材料を選ぶことができれば,有機物によってこれらの目標は達成できると述べた。
現状と応用展開
有機トランジスタ技術および応用と将来展望
千葉大学 工藤一浩氏

千葉大学 工藤一浩氏
有機半導体デバイスについて工藤氏は,柔軟性,耐衝撃性などの形状フレキシビリティ,化学合成や分子機能といった素材フレキシビリティ,低コストプロセスや省エネなどの製造加工フレキシビリティといった特徴を有しており,応用分野としてフレキシブルディスプレイ,ウェアラブルデバイス,情報タグ,センサ,人口皮膚など医用やバイオなどへの応用が期待されているとした。 有機半導体はキャリヤの移動度が低いことが課題であったが,a-Siやpoly-Siに匹敵する電荷移動度を実現しつつあり,配向制御,積層化技術,印刷技術などのプロセス技術,高純度化や結晶化などによる材料開発,縦型FETや相転移型FETといった素子構造,局在物性評価や構造・組成分析などの評価技術などの進展により,大電流・高速化,集積化・複合化素子,新機能素子としての期待が高まりつつあるとした。
現状と応用展開
フレキシブルカラー有機ELディスプレイ技術の現状と将来展望
大阪大学 大森裕氏

大阪大学 大森裕氏
大森氏は,低分子ホスト材料を用いたフレキシブル燐光EL素子,スピンコート法による積層構造EL素子,燐光材料と蛍光材料を用いたパルス駆動EL素子について解説した。 低分子ホスト材料を用いた燐光EL素子では,スターバスト分子TDAPBを用いたウェットプロセスによる有機EL素子を作製し,スターバスト分子がウェットプロセスで作製する高効率有機ELのホストとして有効であるとした。また,水溶性BCPacを用いた積層構造に加え,電子注入層としてAlq3を蒸着することで発光効率を改善し,ウェットプロセスに積層構造を採用することが効率向上に有効であると述べた。 また,有機ELの将来展望については,素子寿命の向上が課題であり,基板とパッシベーション膜の形成,SiO2やSi3N4などによるパッシベーション膜の形成,ITO膜との密着性を向上させる圧膜化などによる素子の機械的耐久性の向上が必要であるとした。
新たなアプリケーションの可能性
液晶性有機半導体の現状と将来展望
東京工業大学 半那純一氏

東京工業大学 半那純一氏
半那氏は,アモルファスや結晶材料ではなく,液晶性を有した新たな有機半導体の材料の特性について研究開発を行っている。 液晶材料は,自己組織的な分子配向能と欠陥の少ないドメイン界面特性を特徴とする。有機多結晶材料に匹敵する高い移動度(1cm2/Vs)をもち,移動度が温度・電場に依存しない特徴的な伝導を示す。これらの特性は液晶物質に普遍的であると考えられる。 その特性は40〜60meV程度の狭い分布を持つ局在準位間のHopping伝導によって説明可能で,液晶性有機半導体は大面積適用性と高品質な電荷輸送特性を併せ持つ新たな有機電子デバイス材料として,将来の発展が期待できるとした。 これからの課題としては,材料設計の指針の獲得,デバイス用モデル材料系の構築,デバイス要素技術およびデバイスプロセス技術の開拓,さらにはデバイス構造を含む新デバイスを開拓,などが求められるとし,これらを克服することで液晶材料の特徴を生かした新規の高品質デバイスが実現できるだろうと述べた。
新たなアプリケーションの可能性
有機LED/半導体レーザ技術の現状と将来展望
信州大学 市川結氏

信州大学 市川結氏
市川氏は,有機LEDの新材料,有機材料を使用した半導体レーザについて紹介した。有機LEDは,ITOの上に正孔輸送層を形成し,発光層,電子輸送層を形成することで作製されるが,高発光効率のため様々な研究開発が進められている。 具体的なアプローチとして,ダブルへテロ構造による高効率化,低電圧駆動化,燐光発光材料による高効率化などが考えられるが,同氏らは高速のキャリア輸送材料による低電圧化を取り組んでおり,具体的には移動度の高い電子輸送材料の開発を進めている。今後は,ダブルへテロ結合を有する単結晶の実現が求められるとした。 一方,有機LEDの高輝度化が進んだことで,有機半導体レーザの研究開発も盛んに行われている。 有機半導体レーザは有機色素レーザと半導体レーザの二つの特徴を併せもち,材料多様性による発振波長の選択性,低しきい値誘導放出,レーザの小型・軽量化などで優位性が発揮できると期待されている。有機半導体レーザ実用化のためにはポーラロン吸収の回避が課題であるとし,分子設計についてはコオリゴマが有用で,電流励起発振に向けては単結晶有機LEDが求められるとした。
新たなアプリケーションの可能性
有機トランジスタ集積回路と大規模有機センサ技術の現状と将来展望
東京大学 染谷隆夫氏

東京大学 染谷隆夫氏
染谷氏は,薄くて曲がるディスプレイ,光センサについて講演を行った。 フレキシブルの特性として,柔軟性があるため壊れない,曲げることができる,ローラ状に巻くことが可能といったことが考えられるとした。一つは電子ペーパーのようなフレキシブルディスプレイの駆動回路としての利用,同氏らはセンサの呼び出し回路などへの利用を提案している。 有機トランジスタは,既存のSiトランジスタに比べて低価格化が可能と言われているが,Siトランジスタも技術革新が進んでおり,必ずしもそうとは言えない。 ただ,有機デバイスは大面積化の実現が期待されており,これが実現すれば,単位面積あたりのコストは低く抑えることが十分可能であると述べた。
新たなアプリケーションの可能性
有機太陽電池の現状と将来展望
東京理科大学 荒川裕則氏

東京理科大学 荒川裕則氏
荒川氏は,色素増感太陽電池およびポリマ系太陽電池の研究開発の現状を紹介した。いずれも導電性のガラス基板やプラスチック基板にコーティングや積層といった塗布技術によって容易に作製することができ,将来的には安価で高性能なroof-top型太陽電池や軽量かつフレキシブルなプラスチック太陽電池の製造が期待されるとした。 実用化へ向けては,ポリマ合成や反応機構の解明などの幅広い研究展開を願うとした。