第71回VLSI FORUM
−新規半導体材料の未来を展望 −

座長 垂井康夫氏
05年11月,学士会館(東京・神田)において,プレスジャーナル主催「第71回 VLSI Forum 新規半導体材料とビジネスの可能性 ―世界をリードする日本の最新材料開発状況―」が開催された。同フォーラムでは,座長に東京農工大学名誉教授・武田先端知財団常任理事である垂井康夫氏を迎え,Siとは異なる半導体材料として注目を集める材料として,パワーデバイスへの実用化が目前に迫るSiC,GaNの他,次々世代の半導体材料であるβ鉄シリサイド,ダイヤモンド,カーボンナノチューブの五つをテーマに講演が行われた。
量産が目前に迫るSiCの特性とその市場
ローム 新材料デバイス研究開発センター 中村孝氏

ローム 中村孝氏
SiCは,常圧では液相は存在せず,約2000〜2200℃以上の高温で昇華するという熱的安定性に加えて,化学的,機械的安定性を有している。12%のイオン性を有する共有結合結晶であり,結晶学的には同一の組成でc軸方向に対して多様な積層構造をとる結晶多形を示す。結晶多形は200種類以上確認されているが,発生確率が高く応用上重要なのは4H-SiC,6H-SiC,3C-SiC,15R-SiCの四つで,その中でも半導体材料として4H-SiC に期待が集まっている。
4H-SiCはSiと比べバンドギャップが約3倍,絶縁破壊電界強度が約10倍の値を有している。そのため,エピ濃度を下げることなく高耐圧化が可能であり,かつ300℃以上の環境での動作が可能となっている。現在の用途としては自動車の他,電車や送電用途といった出力電力が非常に高いもの,および高周波数のものが考えられている。 特に期待されているのは,インバータへの適用である。インバータの材料をSiからSiCへ変更した場合,生じる損失は約5分の1に,体積にいたっては高熱に強いという特性を活かし冷却機構を簡略化することができるため約25分の1へと削減することが可能となり,環境負荷の低減が可能となる。また,自動車への適用も期待されており,自動車向けIGBT の搭載量の目安とされる6インチウェーハ1枚分をSiCに変更することで3インチ1枚で賄えるようになるという。 しかし,大電流デバイスでの歩留りが低い,ウェーハとしての信頼性が低い,流通しているウェーハの主流が3インチであるため低コスト化が進んでいない,などの問題が存在しており,真の意味でのデバイス量産には一刻も早くSiデバイス並の完成度を達成する必要性があるとした。
パワーデバイスへの可能性が広がるGaNの展望
豊田中央研究所 光デバイス・システム研究室 加地徹氏

豊田中央研究所 加地徹氏
GaNが青色LEDに用いられていることは有名である。がしかし,パワーデバイスとしての利用法が見出されたのは01年頃と比較的新しく,実用化へ向けた研究が盛んに行われている状況にある。 GaNの電子移動度は900であり,4H-SiCの移動度700よりも早い。加えて,ヘテロ構造にすることで,二次元電子ガスを作成することが可能となり,移動度は1500となる。この結果,チャネル抵抗を大きく下げられる可能性があるという。また,熱伝導度も従来1.3程度とされていたものが,近年の研究により2.0程度に集束し,Siを上回るようになったこともパワーデバイスへの応用展開を期待させている。
現在,GaNパワーデバイスの性能は,1.7kVで7mΩ程度が最高性能と報告されているが,1mΩを切る程度の性能を実現しなくては新素材としての意味は無いと加地氏は言う。また,従来は高周波デバイスをベースとしていたため,横方向に電流を流す構造となっていた。そのため,構造的に大電流に対応するデバイスを製造することが困難となっていた。この課題を克服するため,同社では縦型構造のデバイスを試作,特性を評価した結果,規格化オン抵抗 2.7mΩcm2,電流密度3000A/cm2以上での動作が確認されたという。 ただし,実用化に際しては,基板はLED向けに2インチウェーハが存在しているものの,SiCと同様にコストが高く,低コスト化が課題となっている。 GaNをパワーデバイスに転用しようとすればコストの許容範囲はSiと比較しても1.5〜3倍の範囲に抑える必要があるという。
光通信/太陽電池で期待されるβ-FeSi2半導体の特性
環境セミコンダクターズ 牧田雄之助氏

環境セミコンダクターズ
牧田雄之助氏
β-FeSi2は地殻に豊富に存在し,かつ人体や環境に無害な材料を用いた半導体で第3世代半導体とも称される。0.85eVのエネルギーバンドギャップを有していることから1.5μm帯の感度を持ち,光通信および計測用センサなどへの応用が考えられている。また,光吸収計数が105cm−1より大きく,熱起電力が10−4 K−1であるため,薄膜太陽電池や熱発電素子としての応用が考えられている。
しかしながら,薄膜の作製には化学量論的相組比を厳密に制御する必要や,良好な表面や界面,および電極の実現,伝導度の制御と所望のキャリヤ濃度の実現など多くの課題が存在しており,まだまだ十分な薄膜を生成することが難しい状態となっている。現在,デバイスとして,太陽電池などの実用化に向けた研究が進められており,変換効率は再現性が高くないため非公式な状態ではあるが,7%程度のものも確認されたという。 今後の課題としては残留キャリヤの原因の特定,残留キャリア低減技術の確立,最適なドナーおよびアクセプタ不純物の決定,不純物ドープ技術の確立などが存在しているという。
究極の半導体材料ダイヤモンド,その特性と可能性
東芝 研究開発センター 先端電子デバイスラボラトリー 酒井忠司氏

東芝 酒井忠司氏
東芝 研究開発センター 先端電子デバイスラボラトリーの酒井忠司氏は「究極の半導体材料ダイヤモンド,その特性と可能性」と題しダイヤモンド半導体に関する講演を行った。 ダイヤモンドは,炭素で構成されているためβ-FeSi2と同様,量が抱負かつ人体に優しい半導体である。また,半導体としては最高の熱伝導率,結晶強度を有しているため,究極のワイドギャップ半導体ということが可能である。さらに,理論的には主要なワイドギャップ半導体の中で,最高の低損失を有する可能性がある。
応用範囲としても真空電子エミッタやSBD,紫外LEDなど幅広い用途が期待されている。しかし伝導率の温度依存性がSiCやGaNとは異なっており,常温ではSiよりも低い伝導度となってしまう欠点を有している。そのため,ダイヤモンド本来の性能を引き出すためには,より浅いエネルギー準位のドーパントが最重要事項となっているという。また,ダイヤモンドは水素終端表面伝導層と呼ばれる p型層を有している。同層は,幅広い温度範囲で安定したキャリア密度を得ることが可能な他,低い表面準位密度によりピニングフリーであり低抵抗オーミック電極が得られる。加えて表面から10nm程度までにほとんどのキャリアが存在するためFETのチャネルとしても理想的であるという特徴を有している。ただし,同層がどのようにして形成されるのか,メカニズムが完全に解明おらず,今後の解明および活用が必要であるとした。
CNTがもたらす半導体の未来
理化学研究所 石橋極微デバイス工学研究室 石橋幸治氏

理化学研究所 石橋幸治氏
CNTを中心としたナノエレクトロニクスは,従来の波動関数に加え,スピン,時間,空間を制御しようという動きがあり,新たなエレクトロニクスが誕生する可能性が出てきている。CNTを用いたデバイスとして,ITRSにもEmerging Technologyとして,SET(単電子トランジスタ)や従来のCMOSとは異なったチャネルの中で散乱の無いFETなどへの応用が期待されている。 講演では,量子ドットがナノデバイスを考える上で重要な位置を占めていることが説明された他,多層CNTを用いた単電子インバータや単層CNTを用いた単電子XORゲートなどが示された。また,これからのCNTとして,GaAs/AlGaAsとのハイブリッドデバイスや発光するCNT,超高感度テラヘルツ応答への応用などが示された。