第72回VLSI FORUM
−車載用デバイスの動向と将来展望 −

座長 垂井康夫氏
プレスジャーナル主催のVLSI FORUMが東京都千代田区の学士会館で開催された。「車載用デバイスの全貌」をテーマに,エンジン制御用のマイコンからパワーデバイス,車内ネットワーキングの鍵を握るFlexRay,センサ,さらには燃料電池まで,今後の自動車の発展を左右するキーデバイスについて,講師・聴講者による活発な議論がなされた。
自動車向けのデバイスは,これまでエンジン制御などを行うマイクロコントローラが中心となって市場を牽引してきた。しかしながら,その安定した市場規模と「環境保護」,「安全性向上」,「快適性向上」などの実現に向けた電子化の進展が急速に進み,センサやパワーデバイスが数多く搭載されるようになり,多くの半導体メーカーが車載用デバイス市場を事業の中核となる柱として注目するようになっている。これまで一定のシェアを確保してきたデバイスメーカー,そしてこれからシェア拡大を狙う新規参入メーカー。今後,ますます高度化する自動車メーカーからのニーズに,どれだけ迅速に高信頼性の製品を提供できるのかで,勢力図は大きく変化する。本フォーラムでは,主要車載用デバイスについて,その最前線が語られた。
次世代カーエレクトロニクスの展望
鳥取環境大学 鷲野翔一氏

鳥取環境大学 鷲野翔一氏
自動車への電子部品の導入は,60年代のICイグナイタから始まった。これにより,自動車メーカーの半導体に対する認識も変化し,雑音やエンジン周辺の高温環境でも動作可能であるとの認識が高められた。その後70年代の第一次,第二次オイルショック(乗用車の排出ガス規制)を契機に,半導体が電子制御AT や電子制御燃料噴射システムに一気に導入されるようになった。その後は,エンジン系では燃焼制御,バルブタイミング制御,気筒別ノック制御,情報系ではカーナビゲーションなどでも半導体が当たり前のように導入され,今や自動車には不可欠となっている。つまり,カーエレクトロニクスは個別部品の置き換えに始まり,車内におけるシステム化を経て,社会と結び付くことで発展を遂げてきた。今後は,社会との結び付きがさらに進み,社会全体として少子高齢化への対応,環境保全を達成していく方向に進む。カーエレクトロニクスは,コンパクトシティの形成に重要な役割を担う形で,今後も発展を続けるであろうと指摘した。
車載デバイスの要,エンジン制御用マイコンの技術動向
ルネサス テクノロジ 渡辺明彦氏

ルネサス テクノロジ渡辺明彦氏
エンジン制御システムの動向を法規制の推移からみると,これまで様々な排ガス・燃費規制が,各地域で導入されてきた。地域間でのバラつきはあるものの,今後も一層厳しい排ガス・燃費規制が導入される方向にある。その法規制の推移と平行したニーズの変遷では,90年代後半以降,法の枠組みに対応した新しい制御の導入が進み,エンジン制御用マイコンには,常に高性能・大容量・最先端技術が求められてきている。そこで,技術面から各種車載応用とエンジン制御用マイコンを検証する。エンジン制御用マイコンは,それ以外の各種車載制御マイコンに比べ,(1)高速・大容量フラッシュ技術のビークル,(2)低消費電流・低EMI技術のビークル,(3)小型パッケージ技術のビークル,(4)高性能化のビークル,などの特徴を有している。 エンジン制御用マイコンでは,割り込み処理が多発する。バックグラウンドのオペレーションに同期・非同期の割り込みが入り,燃料噴射や点火制御などの処理が行われる。これにより,アドレスがランダムに飛ぶため,高速ランダムアクセスが可能なエンベデッド・フラッシュメモリ技術が求められる。同社では, 80MHzノーウエイトアクセス(1サイクル)製品もこれから量産に移行されるという。その80MHzノーウエイトアクセスの実現を支える技術の一つがMONOS(Metal Oxide Nitride Oxide Silicon)となる。コンベンショナルなNOR型と比較して,ワード線・ビット線に高電圧がかからないため,周辺回路を低電圧・高速トランジスタで構成することで高速化が可能になる。一方,低消費電流・低EMIについては,本質的に高速化と消費電流はトレードオフの関係にある。高速化すればするほど,微細化が進めば進むほど低消費電流化と低EMIの実現には大きな壁が立ちはだかる。エンジン制御用マイコンにはそのブレークスルーが求められている。
急速に進化する車載用パワーデバイス
富士電機デバイステクノロジー 藤平龍彦氏

富士電機デバイステクノロジー
藤平龍彦氏
まず,車載用パワーデバイスへのマーケットニーズを見てみると,自動車メーカーからは,環境保護,安全性,快適性・利便性の向上が求められ,自動車の電子 制御化の進展が急速に進んでいる。これを受けて,電装メーカーでは,ECUの数が急速に増大するため,省スペース化,低消費電力化,高信頼性・長寿命化, 高機能化といった動きが進められている。一方で,自動車の電子制御化に伴って需要が増大しているパワーデバイスメーカーへのニーズとしては,低損失化を含む高性能化,小型化,高信頼性化,低コスト化などが挙げられる。
次に,代表的なパワーデバイスであるIGBTの技術動向を検証する。IGBTは85年に第1世代が開発され,現在市場にリリースされている製品は第5世代,06〜07年頃にリリースされる製品が第6世代となる。当初のパンチスルー型と呼ばれるエピタキシャルウェーハを用いたライフタイム制御を行うものから,第5世代からは薄ウェーハ構造を用いたNPT型,FS型のIGBTへと進化を遂げている。無論,その流れの中では微細化が進められ,第4世代からはトレンチ技術も導入され始めている。 薄ウェーハ構造を用いるメリットは,裏面のコレスタ層の濃度をコントロールできる点にある。第3世代のNPT構造では,300μm強あったSiウェーハの厚さが,第4世代からは200μm弱となっているが,Siウェーハの裏面からイオン注入を行い活性化することでコレクタ層を作り込む。この濃度の制御により,ライフタイムの長いSiウェーハのまま使用できる。 一方,FWD(Free Wheel Diode)の技術動向を見てみると,同デバイスは構造が単純であるが故に緩やかな発展を遂げてきた。85年頃から第1世代,95年頃からが第2世代,そして現在は第3世代の製品が投入されている。第1〜2世代では,エピタキシャルウェーハを用いて高レベルのライフタイム制御が行われていたが,現在の第3 世代からは,薄ウェーハ技術を用いて,低注入アノードで,低レベルライフタイム制御が行われている。
車内ネットワーキングの鍵を握るFlexRayの最新動向
フィリップス エレクトロニクス ジャパン 園田慎介氏

フィリップス 園田慎介氏
FlexRayは,車内LANインタフェース規格である。90年代末に設立された「FlexRayコンソーシアム」は,FlexRayの企画,開発,普及のための活動を行う団体で,自動車メーカーや,電装メーカー,半導体メーカー,ソフトベンダなどが参加している。またFlexRayは車内LANインターフェース規格の中でも高い信頼性の要求される車内通信において注目を集めているプロトコルで,通信中にオーバロードが発生しないように,予め必要な時間のスロットを定義したバス・システムにして信頼性を確保する「タイム・トリガ型通信システム」が採用されるなど,様々な工夫がなされている。 現在,同社では,他社に先駆けてスペック・バージョン2.1という製品をリリースしている。同製品は,FlexRayコンソーシアムのみならず日本国内においても標準的な評価用製品として用いられている。
各種センサが作り出すアプリケーション,
そこに求められる製造技術
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン 小菅雅弘氏

フリースケール 小菅雅弘氏
Freescale Semiconductorは,80年頃(当時はMotorola)からセンサ製品の開発を開始し,25年以上の歴史を有している。車載向けのセンサとしては,絶対圧力センサ,相対圧力センサなどがあり,用途としては,絶対圧力センサがBAP(Barometric Absolute Pressure),MAP(Manifold Absolute Pressure),タイヤ圧モニタリング,サイド・エアバックなど,相対圧力センサがブレーキ・ブースタ・モニタリング,液量測定,フィルタ目詰まり監視などが挙げられる。さらにもう一つ注目されるのが,MEMS加速度センサである。前突/側突検知,ロールオーバー検知,乗員検知,走行管理などで用いられ,加速度は1.5gから250gまでの範囲で,自動車用途はほぼカバーできるとした。 なお,今後のコア・エンジニアリングの展望としては,(1)ICの標準製造技術をベースとして使用し,センサを生産,(2)信頼性のある設計,(3)テストを考慮した設計,(4)CMOS互換の製造が,ポイントとなると指摘した。
車載用燃料電池開発の展望
武蔵工業大学 高木靖雄氏

武蔵工業大学 高木靖雄氏
燃料電池が必要とされる背景には,地球温暖化が挙げられる。熱公害による生態系異常,異常気象,砂漠化,酸性雨による魚介類,植物の死滅など我々と取り巻く地球環境は刻一刻と悪化し,早急に何らかの手立てが必要とされている。そこで注目されるのが燃料電池である。中でもPEFC(固体高分子形燃料電池)は,関連技術の進歩が著しく,自動車用にも使用できる可能性が非常に高い。その理由としては,(1)作動温度が低く100℃以下での作動が可能なこと,リン酸,炭酸塩,アルカリ溶液などの特殊な電解質溶液を必要としない,などが挙げられる。だが一方で,トレードオフもある。低温での電気化学反応に白金触媒が必要であり,プロトン導電には水が必要である。また,燃料が純水素でなければならないことも考慮しなければならない。