第73回VLSI FORUM
−次世代リソグラフィ技術の展望 −

座長 垂井康夫氏
半導体デバイスは,45nmプロセス世代に向けた研究開発が進んでいる。中でも露光装置は,液浸に対応したArF露光装置の採用が進み,実用化が視野に入ってきた。また,EUV光を用いた露光装置の開発も45nmプロセス世代以降での実用化を目指した研究開発が進められており,露光装置は現在,次世代への過渡期ともいえる状況にある。06年6月22日開催された,第73回VLSI FORUMの講演概要をレポートする。
本命は液浸orEUV?
「次世代の本命はArF液浸,それともEUV」
超先端電子技術開発機構(ASET) 岡崎信次氏

ASET 岡崎信次氏
冒頭に半導体の微細化と露光波長の短波長化が紹介されるとともに,光リソグラフィ技術による解像度の限界が述べられ,各露光技術のk1ファクタの表が示された。k1ファクタとはプロセスの難易度を示す定義の一つで,〈k1=デザインルール×露光装置のNA/レーザの露光波長〉で表される。通常の半導体量産において,k1は0.4前後に設定するため,それに見合ったNAと露光波長が選択される。k1ファクタとプロセス手法の相関関係によれば,70〜65nmまでは純水を使った液浸露光,45nmまでは高屈折材料を用いた液浸露光,40nm以降はEUV露光が必要になるとの見通しが示された。さらにk1ファクタは光近接効果に影響を与える。つまりk1ファクタの値が小さくなるほど,設計したパターンとは異なった光学像が結ばれてしまうわけだ。こうした状況を回避するためにOPC(Optical Proximity Correction:光近接効果補正)技術が必要で,k1ファクタが0.6以下であれば簡単なOPCが,0.4以下では複雑なOPCが必要となり,0.3未満ともなれば超複雑なOPCとともに複数露光までが必要となってくる。
そこでEUV露光技術に注目が集まっているが,同技術もいくつかの課題を抱えている。例えば同技術ではレンズ光学系が使えないため,高精度の非球面ミラー光学系が用いられるが,多層膜鏡の反射率は70%未満であるため,ミラー枚数の少ない設計が求められる。また従来の透過型マスクや厚膜レジストは使用できず,代替品が必要となる他,EUV光源にも高出力,高安定といった要素が必須となる。 ArF液浸露光とEUV露光のそれぞれの特色を踏まえた上で岡崎氏は,ArF液浸について,いかにコスト面でのメリットを打ち出すことができるかが鍵となると述べ,同時に10年に45nmプロセスへEUV露光を採用するには,早急な装置開発とマスクやレジストの実用化が必要であるとした。どちらの技術が次世代の主流となるかは,聴衆の大きな関心事の一つであり,講演後は多くの質問も提示された。
液浸露光装置の現状
「超高NA時代におけるArF液浸露光装置の現状と今後」
ニコン 金子謙一郎氏

ニコン 金子謙一郎氏
ニコンが06年1月にリリースしたArF液浸露光装置「NSR-S609B」を例として,液浸露光装置の現状を報告した。NA1.07を実現している同装置は波長193nmのArFエキシマレーザを光源に採用しており,縮小倍率は1/4倍,最大露光領域は26mm×33mm,アライメント精度は7nm以下となっている。また同装置に搭載された偏光照明「POLANO」は,偏光のコントロールおよび制御を行い,通常の照明光をウェーハ面に対して平行なs偏光に変換し,像コントラストを20%向上させている。コントラストの向上は,微細な回路パターンの焼き付けに適している他,回路パターンの均一性も向上させ,照明光のエネルギー誤差やウェーハ現像時のムラが発生した場合,線幅の変化を抑制できる。 また新たに開発した「タンデムステージ」によって,300mmウェーハで毎時130枚以上のスループットを実現している。露光ステージとキャリブレーションステージから構成されるタンデムステージでは,ウェーハ交換時に純水の供給が停止しない。純水の供給および回収をスムーズに行うことで,水分の残留によるウェーハの染みを防ぎ,歩留りの向上を図っている。またウェーハ交換ごとにキャリブレーション(較正)を行うため,アライメント精度の向上に成功している。
液浸露光装置の現状
「超高NA時代のArF液浸露光装置技術の現状」
キヤノン 小林正道氏

キヤノン 小林正道氏
現時点でキヤノンは液浸露光装置を発表していないが,高屈折材料や露光熱のシミュレーションの研究を行っており,準備は怠っていない。液浸技術によってドライからウェットの世界に突入する半導体露光では,熱に関わる課題も大きい。例えば,純水の気化して温度が下がれば,ウェーハ寸法に狂いが生じ,精度の低下を招く。反対に光源が純水を温めた場合も,ウェーハへの影響は免れないといった具合だ。 また小林氏は講演の中で,高屈折率液体は実用に近いレベルのものが入手可能であるとした一方,高屈折率の硝材は満足できるものがなく,早期の開発が望まれるとした。さらに微細化に伴うレジストの課題として,45nmプロセス以降は酸の拡散長の低減が急務であるとし,同時に拡散長の低減によってレジスト感度が低下するため,露光装置の高照度化が必要であると述べた。なお同社はArF液浸露光装置の「FPA-7000」を07年に発表する予定で,NA1.3以上,hp45nmとなる他,ドライ露光にも対応するという。 デバイスメーカーも液浸技術の評価を終え,06年内には50nmプロセスを採用した製品が発表されるとみられる中,同技術の中枢を担うともいえる露光装置について,ニコンとキヤノンが語る講演内容は多くの関心を集めた。さらに微細なプロセスを実現する2社の動向に期待が寄せられている。
液浸リソグラフィ対応のレジスト開発
「超高NA時代の液浸材料」
東京応化工業 安藤友之氏

東京応化工業 安藤友之氏
レイリーの式を用いて,hp65nm,hp45nm,hp32nmの各世代においてレジストを解像するにあたって,k1ファクタを0.3とするには,どの程度のNAが必要であるかを検証すると,193nmドライのリソグラフィではNA0.90,193nmの水液浸リソグラフィではNA1.30,193nm の高屈折率媒体を用いた液浸リソグラフィでは,NA1.80とし,液浸露光に対応した材料を開発する場合には,前提としてこれらの条件を鑑みる必要があるとした。 純水を用いた液浸リソグラフィでは,従来,トップコートを用いるレジスト材料の開発が行われてきた。しかし,プロセス数の低減,材料コストの削減などの観点から,トップコートを必要としないレジストの開発が進められ,ほぼ実用化に近い状況にある。 液浸リソグラフィでは,当然のことながらドライリソグラフィと違い,レジストは純水と接する。当然,これにより種々の問題が発生し,レジストメーカーにはそれらの課題の解決が求められる。主な課題としては,(1)純水の残渣,(2)純水とレジストの境界面からのバブルの発生,(3)純水へのレジスト組成物の溶出(これによりレジストマトリクスが変化),(4)NA1.0を超えた場合の反射率の制御,などが挙げられる。東京応化工業では,(1)〜(3)の課題に対しては,撥水性,疎水性の違う数種類のトップコート材料を様々な角度から検証し,最適化を図ったとしている。
EUV露光装置の開発状況
「EUV露光装置実用化に向けた課題と現状」
極端紫外線露光システム技術開発機構(EUVA) 阿部直道氏

EUVA 阿部直道氏
EUV露光技術は,k1ファクタがhp45nm世代で0.83,hp32nm世代でも0.59,hp22nm世代では弱い超解像度技術を用いたとしても0.41であり,解像度的に余裕があることと,複数世代にわたって使用できる点で,注目を集めている。 EUVでは,13.5nmという軟X線領域の光を使用する。しかしながら,同波長の光は,ほとんどすべての物質において強い吸収を持つため,通常のレンズ光学系は使用できず,反射光学系の露光システムが必要となる。そのため,EUV露光技術の実現には,周辺部材も含め,いくつものブレークスルーが必要となる。
EUV露光装置では,照明光学系で6枚程度,投影光学系で6枚程度の反射ミラーを使わざるを得ない。現在,ミラー1枚当たりの反射率は理論上70%である。通常使用するレベルでは68〜69%の反射率となる。ミラー2枚の反射で50%以下,10数枚の反射ではウェーハに到達するEUV光の光量は,入射光の1%以下に低下してしまう。そのため,中間の集光点で115Wのパワーが必要とされている(レジストが5mJ/cm2の感度の場合)。これが達成できれば,スループットは300mmウェーハで毎時100枚が可能となる。無論,レジストの感度が2mJ/cm2,反射率も各ミラーで1%ずつでも改善されれば,光源の開発に大きな余裕を持たせることが可能となる。 なお,EUV露光装置の現在の稼動状況および今後の出荷予定を見てみると,欧米では,MET(小露光面積実験装置)がInternational SEMATECHなど4か所で稼動中であり,レジスト・マスクの研究開発に用いられている。ASMLのα機(フレア16%)の開発は順調に進められており,近日中にAlbany Nanotechに導入される予定である。また,日本ではHiNA-3がASETで稼動中であり,レジスト・マスクの開発が進められている。
EUVリソグラフィ対応のマスク開発
「EUV露光向けマスクの動向」
HOYA 西田直樹氏

HOYA 西田直樹氏
EUVリソグラフィに用いられるマスクは反射型であり,従来のLTEガラス基板(6025)上に,SiとMoを数十周期(約40)で積層させた多層膜を用いることとなる。この多層膜において最も重要視されるポイントが欠陥であり,ゼロ欠陥(@30nm)が求められる。また,反射率についても65%以上の確保が不可欠とされている。一方,ガラス基板については,表面,裏面ともに50nmレベルが必要となる。なお,マスク全体としてみると,高精度,低LER,無欠陥,高EUV反射率が求められることとなる。 HOYAでは,これらのニーズに対応するため,様々な改善,開発を行っている。例えばマスクの平坦性制御については,新たなポリッシング技術を開発した。従来のポリッシング技術では数百nmレベルの平坦度であったが,新技術では,表面で38nm P-V,裏面で67nm P-Vという値が得られているとしている。ただし,新技術では,表面のラフネスや欠陥の増加という課題も発生しており,50nmフラットネスに向けて改善が必要となっている。なお,西田氏は,一つの改善策として新技術でのポリッシング後に,従来の研磨を行う組み合わせを提案した。