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これが中小型ディスプレイの全貌

黎明期から巨大市場へ
― モバイル用アプリケーションの発展とともに進化 ―

鵜飼育弘/ソニー

はじめに

鵜飼育弘氏

今回は「モバイル用アプリケーションの発展とともに進化」と題して,LCD市場動向を中心に応用製品の展開と市場規模を振り返ってみる。
セグメント型TN-LCDから始まったLCD市場は,STN-LCD,a-Si TFT-LCD,LTPS TFT-LCDへと技術の発展に合わせて応用製品も拡大し06年には2兆円を超す巨大産業となった。OLEDは材料・プロセスなどの技術課題を解決しながら応用製品の開発を進め,97年に初めて商品化されたが,06年現在,大きな市場を確立するには至っていない。

市場動向

図1 LCD市場の変遷
図1 LCD市場の変遷

北原洋明氏の分類に従ってLCDの市場動向を振り返る(図1)1)。ここでは,黎明期としての70年代を第I世代,80年代を第II世代,本格的な量産期としての90年代を第III世代,大産業への飛翔としての00年代を第IV世代とし,技術動向と合わせて述べる。

1. 第I世代(70年代)

73年に腕時計用,76年には電卓用のセグメント型TN-LCDが商品化された。またミラークロックやゲーム機にも採用された。79年には,ドットマトリクス駆動のTN-LCDが開発されキャラクタ表示(英数字,記号,カタカナ)が可能となり,関数電卓,電訳機用が商品化された。

2. 第II世代(80年代)

図2 71年から00年までのLCD市場推移
図2 71年から00年までのLCD市場推移

TN-LCDでは表示容量に限界があったが86年のSTN-LCDの出現でこの課題は解消された。STNモード特有の着色に関しては,87年のDSTN(2層方式によるモノクロSTN:MSTN)や89年のFSTN(補償フィルムによるMSTN)が実用化された。これらは,電話機やシステム電子手帳などの製品にも採用された。
84年にa-Si TFT-LCDが搭載された3型LCD-TVが商品化された。89年にはモノクロ表示の9型TFT-LCDが搭載されたノートPCが商品化された。
71年から00年までのLCDの市場動向を図2に示したが,同図から80年代末の市場規模は約20億ドルであったことが分かる2)。

3. 第III世代(90年代)

図3 71年から00年までのPM-LCD市場推移
図3 71年から00年までのPM-LCD市場推移

小型カラーTFT-LCDによるLCD-TVおよびモノクロTFT-LCDによるノートPCの商品化に続いて中型のa-Si TFT-LCDの量産が各社で始まった。主たる応用製品は,ノートPCである。当時はカラーSTN-LCD(CSTN)が市販されていたが,一旦a-Si TFT-LCDのディスプレイを見てしまうとコスト的には割高でも顧客は次第に見向こうとはしなくなった。これは,a-Si TFT-LCDがSNT-LCDに比べ大画面・大容量かつ綺麗な表示でしかも早い応答時間を実現したことによる。90年代はノートPC用TFT-LCDがLCD産業の基盤を確立したといっても過言ではない。

図4 71年から00年までのAM-LCD市場推移
図4 71年から00年までのAM-LCD市場推移

a-Si TFT-LCDおよびTFD(Thin Film Diode)-LCDによる小型ディスプレイがカムコーダ(VCR)およびデジタルスチルカメラ(DSC)に採用されたのも90年代初期である。
LTPS TFT-LCDの量産は,94年ソニーと三洋電機の協業で開始され,VCRに採用されたのが始まりである。携帯電話にLCDが採用されたのは90年代後半でMSTN-LCDが最初である。図2から90年代末の市場規模は約150億ドルとなっており,80年代末に比べ7倍以上に拡大したことがわかる。

4. 第IV世代(00年代)

96年から10年までの中小型LCDパネルの実績と予測(金額)を図5,図6に示す3)。両図からパッシブマトリクスLCD(PM-LCD)とアクティブマトリックスLCD(AM-LCD)の比は,80年代末時点ではPM-LCDが大半であったが02年でAM-LCDが逆転したことがわかる。06年の出荷金額は225億2300万ドルで,この数字は全FPD出荷金額の27%近くを占める。AM-LCDおよびPM-LCDの出荷金額は各176億4400万ドル,48億7900万ドルである。06年の中小型TFT-LCDの市場規模は図5から,携帯電話59%,携帯オーディオ11.1%,DSC10.3%,車載6.8%,携帯ゲーム6.2%,PDA1.1%であることがわかる。携帯電話用メインディスプレイ市場は,カラー化・高精細化に伴ってa-Si TFT-LCDおよびLTPS TFT-LCDの採用が急速に始まった。06年の出荷数は,TFT-LCDが約6億2000万枚(a-Si TFT-LCD:4億2000万枚,LTPS TFT-LCD:2億枚),CSTN(カラーSTN)が3億5000万枚,MSTN(モノクロSTN)1億7000万枚である。日本ではQVGA以上の解像度を有するTFT-LCDが標準であるが,海外では低コストのSTN-LCDが中心である。出荷数量でAM-LCDがPM-LCDを追い抜いたのは06年である。なお,OLEDの携帯電話への採用はわずか500万枚程度で全体の0.5%にも達していない4)。
DSC用LCD市場は,需要に対する飽和感が表れて06年の出荷総数は1億3000万枚。TFT-LCDのサイズは,年々拡大しており3年前の主流であった1.5型は姿を消し,2.0型から2.5型に置き換わろうとしている。直近のモデルではハイエンドモデルを筆頭に3.0型の搭載も増えつつあり,確実に大型化に向かっている5)。なおOLEDは3万枚とほんのわずかである。
VCR用市場は,安定基調で年間約2000万枚の規模である。TFT-LCDのサイズ別内訳は,2.5型が約860万枚,2.7型ワイドが1000万枚,3.5型が50万枚である。HD対応のLCD-TVの市場拡大に伴ってアスペクト比16:9のいわゆるワイド型が増加しつつある。OLEDの市場動向は,携帯電話のサブディスプレイや携帯音楽プレーヤ用に採用された。市場規模としては05年に5600万枚,06年7600万枚と数量は伸びている。しかし,ほとんどはPM-OLEDでAM-OLEDは極わずかであり07年以降の動向が注目される。

図5 中小型AM-LCD市場の応用分野別実績と予測
図5 中小型AM-LCD市場の応用分野別実績と予測

図6 中小型PM-LCD市場の応用分野別実績と予測
図6 中小型PM-LCD市場の応用分野別実績と予測

ユビキタス・ネットワーク社会におけるディスプレイの役割

以上,市場動向を見てきたが03年に入ってから中小型LCD市場は急激に拡大した。これは,情報通信技術の目覚しい進展により,ネットワークが隅々に行き渡り,時間や場所の制限を受けずに,必要とする情報や知識を,誰もが自由に創造・流通・共有できる情報通信技術の環境(ブロード・バンド・ネットワーク)が構築されつつあることによる。いわゆるユビキタス・ネットワーク(Ubiquitous Network)社会の到来である。このような情報通信環境を実現するには,人間が直接情報をやりとりするインターフェースである情報端末機器技術の発展が不可欠である。とりわけ,誰もが享受できる情報端末機器の「顔」としてのディスプレイには,高品位なものが要求されるが,さらに薄型・軽量,低消費電力,高信頼性が不可欠である。この要求を実現出来るディスプレイとして,a-Si TFT-LCDおよびLTPS TFT-LCD技術が注目されている。中でもLTPS TFT-LCDは,高精細・高品位・広色再現性・低消費電力などの優位性から,携帯電話,DSC,PDA,VCRなどの用途向けの需要が増加している。今後は,情報通信技術環境整備の進展に伴って中小型ディスプレイの市場もさらに広がることが期待される。

中小型TFT-LCD メーカーの動向

DisplaySearchによる06年の中小型TFT-LCDの推計出荷金額は約187億ドル(約2兆2000億円)。メーカー別金額シェアは,シャープ20%,東芝松下ディスプレイテクノロジー12%,セイコーエプソン10%,日立ディスプレイズ6%,ソニー6%,カシオ計算機2%,その他日系メーカー4%,Samsung Electronics9%,LG.Philips LCD3%,TPO Displays7%,AU Optronics7%,その他台湾系メーカー7%,その他0.5%となっている。日本が上位3社を独占し,世界市場の6割を占める4)。しかし,韓国・台湾も力を付けており楽観は許されない。なお日系メーカーの占有率が高い理由としては,中小型ディスプレイが携帯機器の「顔」でありノートPC,モニタおよびTV用TFT-LCDのように規格化されたサイズおよび解像度のディスプレイではないためであると考えられる。
すなわち,携帯電話用TFT-LCDを見て分かるように種々のサイズ・解像度がある。モジュール形態も様々でユーザーの要求にきめ細かい対応力が求められる。ある意味では多品種少量生産(大量製品もあるが)の範疇であり,対応できる技術者数が受注を左右すると言っても過言でない。しかし,大型TFT-LCDの分野と比べて価格下落が大きい分野である。今後は,いかに価格下落に対応できるコスト競争力が付けられるか,高付加価値の製品を創出できるかにかかっている。

おわりに

今月号は中小型ディスプレイ市場の経緯についてLCDを中心に述べた。この産業は技術者の寝食を忘れた努力の結果,CRTでは到底実現できなかった新たな商品を創出してきた。巨大産業にまで発展してきたのは,デバイス技術者とセット技術者のコラボレーションの結果が奏功したといえる。

謝辞

中小型液晶パネルの実績と予測データを提供頂いたアイサプライ・ジャパンの増田ディレクターに感謝の意を表します。

〈参考文献〉
1)北原洋明,新液晶産業論 p12 工業調査会(2004)
2)iSuppliデータ
3)iSuppliデータ
4)早瀬宏,月間ディスプレイVol.13 pp.9-14(2007)
5)中村真治,月間ディスプレイVol.13 pp.56-61(2007)


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