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これが中小型ディスプレイの全貌

技術開発へのプロローグ
― 高精細化,高機能化などの性能向上と低価格化の両立 ―

鵜飼育弘/ソニー

はじめに

鵜飼育弘氏

今回は,「技術開発へのプロローグ−高精細化,高機能化などの性能向上と低価格化の両立−」と題して,携帯機器用ディスプレイに要求される性能,低価格化と高付加価値化に関して述べる。携帯機器の高機能化・差異化に伴って,ディスプレイへの要求も多肢にわたっている。しかも,中小型TFT-LCDの価格下落率は年間25〜30%で推移しており,性能向上と低価格化の両立はディスプレイメーカーにとって死活問題である。

携帯機器用ディスプレイに要求される性能1)

携帯機器用ディスプレイに要求される性能は,(1)高品位,(2)薄型・軽量,(3)低消費電力,(4)狭額縁,(5)高信頼性,(6)堅牢性などである。しかも,携帯機器用ディスプレイのサイズは,基本的には人間工学的に決められていて,サイズが限定されている。従って,高精細化と狭額縁化が重要である。また,使用される環境が夜間の暗闇状態から直射日光下にまでわたるため,周囲光の変化に対する視認性も重要である。

1. 大画面化,薄型化,高精細化,高画質化の動向

200万画素のカメラ,「FeliCa」,ワンセグ,3.0型TFT-LCD,音楽再生など携帯電話の多機能化は留まるところを知らない。一通りの機能を実用化した今,「薄さ」が重要な差異化要因になってきた。携帯電話の主画面に搭載されるTFT-LCDの画面サイズは,05年には2.2〜2.6型,06年には2.2〜2.8型,07年には2.4〜3.0型,08年には2.6〜3.2型と年々大型化している。大型化が進むにつれてモジュールの薄型化も進み,07年には約1.2mm,08年には1mm以下になると予測されている。この傾向は,06年秋の展示会および07年になってからの各社の発表からも窺える。ディスプレイメーカーは薄型化にしのぎを削っている。東芝松下ディスプレイテクノロジー(TMD)は厚み0.99mm,日立ディスプレイズは1.29mm,LG.Philips LCD(LPL)やAU Optronicsは1.3mmの開発を発表した。シャープは,厚みが0.89mmと薄いTFT-LCDを展示した。Samsung SDIは,0.74mm厚の2.3型「Ultimate Slim Module」を開発した。同モジュールの画素数は320×240のQVGA,輝度は300cd/m2,色再現範囲は70%で,いずれも従来品より優れた性能である。
地上デジタルTV,ワンセグメント放送(ワンセグ)が06年4月1日よりスタートし,携帯機器向け放送として様々な機器への利用拡大が見込まれる。多機能化が進む携帯電話でも,身近な放送受信システムとして,ワンセグ機能搭載に加えて,静止画像や文字表示においても表示領域の拡大を望む声が大きくなっている。ソニーとソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズは,携帯電話向けに共同開発した高画質エンジン「Reality Max」を搭載し,16:9フルワイドの2.74型LTPS TFT-LCDモジュールを開発し,携帯電話に採用した。このモジュールは画素数が240×(RGB)×432で,従来のQVGAパネルに比べ表示情報量が約35%増加する。その結果,ワンセグ放送などの16:9画像をサイズ変更することなくそのまま表示できる。また表示領域が広がることで,カメラ撮影した静止画像やメールの文字を閲覧する際にも,より見やすい表示が可能である。さらにReality MAXを搭載することにより,ソニーがこれまでTVの開発で培ってきた,画像を自動的に分析し明るさとコントラストを向上させる高画質技術と,画像の鮮鋭度を自動補正する輪郭強調技術によって,より鮮やかな画像表示が可能になった。160°以上の広い視野角を有している同LCDは,独自の薄型高効率導光板を用いることによって携帯電話の薄型化にも貢献している。
日立ディスプレイズは,携帯電話向けの2.9型ワイド高精細(WVGA:480×800画素)IPS TFT-LCDを開発し,06年12月より量産を開始した。このモジュールは,TV用液晶技術であるIPS技術を採用し,IPS TFT-LCDの特徴である広視野角・高画質に加え,高精細(VGA:480×640画素)を実現したものである。これにより携帯電話で,より高画質・高精細な画像を表示することが可能となった。さらに,フルブラウザ機能を使用し,PC向けのWebサイトを閲覧する場合やVGAの動画を閲覧する際,横方向にスクロールをすることなく,画面全体を閲覧することも可能となる2)。
エプソンは,2.6型でXGAの解像度および約500ppiの高精細を実現するTFT-LCDを開発した。XGAの画素レベルを実現するディスプレイとしては世界最小クラスのサイズである。また,約500ppiの高精細だけではなく,上下左右約180°の超広視野角化技術や,透過率を向上させる独自の設計技術を活用し,高表面輝度を実現した。このTFT-LCDを搭載した携帯電話などのモバイル機器では,通常のPC画面と同レベルの画質および情報量を表示することが可能になる3)。

2. 高機能化

図1 MIP技術の概念図
図1 MIP技術の概念図

携帯端末のTFT-LCDでは,使用時のほとんどの時間が待ち受け状態であるため,静止画表示時における消費電力の低減は,待ち受け時間の観点から非常に重要な技術である。待ち受け時の低消費電力化技術としては,時計などの表示を低ビット色で表示する低色表示機能や,表示を画面の一部分のみに限定し非表示区間でのパネル動作を止めるパーシャル駆動が一般的である。しかしながら,携帯機器の高性能化,特にカメラモジュールの内蔵に伴い,静止画表示時であっても通常使用状態と変わらない,多色表示が可能なディスプレイの要望が強い。
静止画表示時の低消費電力化を図る上での課題は2点存在する。1点目は,液晶の交流駆動による充放電電力の問題である。液晶はその物性上,交流反転駆動を行う必要がある。外付けのドライバで交流反転の書き込みを行うと,重い信号線の負荷容量を反転駆動の周期で充放電する必要があるため,電力面から見て非常に不利である。2点目は,ドライバとフレームメモリ間のデータ送受信による消費電力である。現行のシステムでは,ドライバに対してメモリから常に高速の表示画のデータを送信する必要があるため,消費電力の増大を招いている。ソニーが開発したTFT-LCDへのメモリ内蔵技術(Memory in Pixel:MIP)は,上記の二つの課題を同時に解決することのできる有望な技術である4)。

図2 MIP TFT-LCDの画素数と消費電力
図2 MIP TFT-LCDの画素数と消費電力

図1にMIPディスプレイの概念図を示す。画像表示用の液晶層の下にはLTPS TFTを用いて形成されたSRAMと,交流反転用のドライバ回路が各画素にモノリシックに集積されている。SRAMのデータを各画素に直接書き込みできるため,静止画表示時にはフレームメモリと液晶書き込み用のドライバの間で通信を行う必要がない。また,交流反転駆動を画素単位で行うことができるため,重い負荷容量を持つ信号線の充放電を行う必要もない。そのため,従来のパネルでは考えることができなかった超低消費電力化を実現することが可能となる。図2にMIP技術によるTFT-LCDの画素数と消費電力の関係を示したが,この技術の採用で消費電力を劇的に削減できる。

低価格化と高付加価値化5)

今月号のテーマは「高精細化,高機能化などの性能向上と低価格化の両立」である。ここではこの命題に対する解決策として,投資生産性の改善と部材のIn-Cell化による直材費比率の改善について述べる。

1. 投資生産性の改善

ライン全体の投資生産性は次の式で定義できる。


ここで,パネル生産量はマザーガラスの投入枚数と1枚のマザーガラスの上に焼き付けられるパネルの枚数(面取り数)に工程の歩留りを掛けたものである。マザーガラスの投入枚数は,ラインを構成する各製造装置のタクトタイムと台数に依存する。通常は,パネル生産量から逆算してマザーガラスの投入量を決める。このマザーガラスの投入量に対して,工程内の各設備のタクトタイムが揃っていなければならない。
投資総額については,上式の中でアレイ設備投資金額の割合が約半分と大きい。アレイ工程では,工程削減すなわちマスク数を削減する努力が行われ4枚マスクで大型LCD-TV用パネルが量産されている。マスク数を削減することによって,TFTアレイ製造の工程数を減らし,設備額を抑えることが可能になる。
以上に述べた例はa-Si TFT-LCDの場合であり,LTPS TFT-LCDの場合は,さらに固有の設備投資が必要である。しかもマスク枚数はa-Si TFT-LCDの約2倍は必要である。従って,式から明らかなように低コスト化対応として,マスク枚数およびプロセスステップ数の削減で既存ラインの生産数量の増加を図ることが重要である。LTPS TFT-LCDの生産が始まって10年の年月が経過したが,果たしてa-Si TFT-LCDのようにマスク削減がされてきたとは言い難い。どちらかというと,新規技術導入による高性能化,高機能化に注力するあまり,マスク枚数削減などによる投資生産性向上の対応が疎かだったと言わざるを得ない。
今やa-Si TFT-LCDも,開口率ではやや劣るもののLTPS TFT-LCDと肩を並べる高精細のパネルや,ゲートドライバ内蔵パネルの開発および生産が始まっている。しかも,a-Si TFTによる中小型パネルの生産ラインはすでに償却が済んでいる。従って,今後もLTPS TFT-LCDが中小型市場で揺るぎない地位を確保するには,投資生産性の改善が急務である。
既存のa-Si TFT生産ラインに巨額の追加投資をすることなく,LTPS TFTによる回路内蔵型TFT-LCDの生産能力を引き上げることができる新しい製造技術を,日立ディスプレイズと日立製作所研究開発本部が共同で開発した6)。a-Si TFT基板の中で,周辺の回路内蔵のような大きい移動度を必要とする部分のみ固体レーザを照射し,Siの結晶化と横方向の結晶成長を同時に実現した。これにより,大面積基板に位置精度よく結晶領域を形成することができ,通常のELAによるLTPS TFT工程に比べて,良質な結晶を短時間で作ることが可能になった。
もう一つの技術は,ソース・ドレイン領域形成のためのイオン注入工程や活性化工程をなくしたことである。この結果,結晶化によるp-Si膜形成以降の工程に,既存のa-Si TFT生産ラインをそのまま使えるようになった。イオン注入装置や活性化のためのアニール装置などに追加投資する必要はない。LTPS TFT生産ラインを新たに作る場合に比べて,設備投資額は1/10で済むという。

In-Cell化技術による直材費比率の改善1)

図3 モバイル用TFT-LCDモジュールの構造
図3 モバイル用TFT-LCDモジュールの構造

モバイル用TFT-LCDモジュールの構造を図3に示す。モジュールの構成としては,白色LEDと導光板からなるバックライトユニット(BLU),TFT側偏光板,TFT基板ガラス,液晶,カラーフィルタ(CF)基板,CF側偏光板,タッチパネル(TP)および図示されていない駆動回路から構成されている。図の場合,ガラス基板の厚みは0.5mmであるが,最近はさらなる薄型化が進められており,0.2mmのものも実用化されつつある。ただしこの板厚は,ガラスをエッチングあるいは研磨により薄板化したもので,資源の有効利用,地球環境保全の観点から有効な手段とはいえない。一方,偏光板や位相差板の光学フィルムの厚みは,0.3mm〜0.4mmでガラス基板より厚い。かつて「偏光板をガラス基板に貼る」と言っていたが,この表現を「ガラス基板を光学フィルムに貼る」と言い換えることが必要である。
TFT-LCDモジュールの原価構成はコストの大半は部材が占め,部材費の内訳は,BLU,CFが各々1/4を占める。TFT-LCDモジュールの直材費としては,偏光板・位相差板などの光学フィルム,BLU,駆動回路,CF,TPなどである。
In-Cell化の目的は,(1)TFT-LCDモジュールの薄型化,軽量化,堅牢性および高信頼性化の向上,(2)TFT-LCDモジュールの部品・材料費を付加価値としてパネルメーカー内に取り込む,(3)TFT-LCDは,装置産業でありまた労働集約型産業であるが,労働集約的な生産工程の削減による国内産業の空洞化を抑制,(4)新規デバイスの創生などである。次に,TFT-LCDモジュール部材のIn-Cell化の事例を紹介する。

1. 駆動回路

モジュール部材としてIn-Cell化の対象になるものは,偏光板,位相差板,BLU,TP,駆動回路などである。CFはTFT-LCDの量産当初からIn-Cell化されている。駆動回路は,LTPS TFT-LCDではすでにドライバ回路のみならず,TFT-LCDの駆動に必要な周辺回路をモノリシックに集積したデバイス「システム・オン・パネル(SOP)」がすでにソニーで携帯機器用LTPS TFT-LCDとして開発され量産されている。

2. 光学フィルム

LCDは液晶分子の持つ電気光学特性を利用して表示を実現するデバイスであり,表示の高精細化,カラー化,高速化に適合した液晶材料が用いられている。しかし,本来光学異方性のある材料を用いているため,複屈折性による光学的なゆがみや,視角方向による変調のため表示が着色するなどの視角依存性が生じる。現在実用化されているTFT-LCDは,その光学特性を最適化するために多くの光学フィルム(偏光板・位相差板・補償板)が用いられている。視角補償の基本的な考えは,液晶と補償板を組み合わせ屈折率楕円体の歪みが全方位でなくなるようにすることである。最近,リアクティブメソジェン(Reactive Mesogen:RM)が開発されTFT-LCDへの適用が進められている。この材料は液晶性を示し,その分子の中にポリマーを形成できる反応性の構造を有しており,特にアクリレート基は紫外線の照射により重合しポリマーを形成することができる。RM溶液を用いることで薄膜をガラス基板上に直接形成することが可能で,しかもパターン形成も可能である。
この材料を用いた塗布型位相差板によるIn-Cell位相差板の開発が各所で行われている。IPSモードへの応用はすでに実用化され携帯電話に搭載されている7)。

おわりに

携帯機器の「顔」としてスタートした中小型TFT-LCDは,今やメモリ,センサなどの内蔵による「インテリジェント・ディスプレイ」へと変革しつつある。技術の大きな流れは,高機能化・高付加価値化を目指したSOPと薄型・軽量化を目指したIn-Cell化である。
一方,市場の拡大に伴って低価格化への要求も根強く,ここで取り上げた投資生産性の見直しやIn-Cell化による直材費比率の削減に取り組むことが重要である。
ここで紹介した技術の「芽」が「開花」することによってTFT-LCDの生産工程に「革命」が起こり,新規デバイスが創生されるとともにさらなる市場の拡大に寄与するであろう。これらの技術開発・実用化に当たっては材料・装置メーカー,セットメーカー,パネルメーカーの三位一体となった取り組みがより重要になってくる。

〈参考文献〉
1)鵜飼育弘,電子ジャーナル別冊「2007LCDテクノロジー大全」pp.34-45(2007)
2)日立ディスプレイズ ニュースリリース(2006)
3)エプソン ニュースリリース(2006)
4)Nakajima et al.,SID’06 Digest p.1185-1188(2006)
5)鵜飼育弘,「低温ポリSi TFT-LCD技術」EDリサーチ社 pp.118-122(2005)
6)日立ディスプレイズ ニュースリリース(2007)
7)O.Itou, et al.,IDW' 06 Digest pp.635-638(2006)


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