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これが中小型ディスプレイの全貌

LTPS TFT-LCD のデバイス技術動向
― システム・オン・パネルと高集積化,高品位化 ―

鵜飼育弘/ソニー

はじめに

鵜飼育弘氏

第7回では,「LTPS TFT-LCDのデバイス技術動向−システム・オン・パネルと高集積化,高品位化−」と題して,技術ロードマップ,システム・オン・パネル,高集積化,高品位化の技術動向を述べる。
誰もが享受できる情報端末機器の「顔」としてのディスプレイには高品位なものが要求されるが,さらに薄型・軽量,低消費電力,高信頼性が不可欠である。この要求を実現できるディスプレイとして,低温poly-Si(LTPS)TFT-LCD技術が注目されている1)。LTPS TFT-LCDは,高精細・高品位・広色再現性・低消費電力などの優位性から,デジタルビデオカメラ(DVC),デジタルスチルカメラ(DSC),パーソナル・デジタル・アシスタント(PDA),携帯電話などの用途向けに需要が増加している。

LTPS TFT-LCDの技術ロードマップ

LTPS TFT-LCDは,a-Si TFT-LCDと比較して微細なCMOS電子回路を大型ガラス基板上に形成できる2)。この技術を用いて周辺駆動回路を一体化することで,信頼性が高く低消費電力,高精細,高品位のディスプレイが実現できる。将来,LSI並の微細加工技術やCMOS回路技術とLCD表示技術を融合することで,画像処理機能や情報処理機能をOn Glassに集積したいわゆる「インテリジェントディスプレイ」あるいは「アドバンスドモバイルターミナル」の実現が可能になる。
ネットワーク社会の発展に伴い,ディスプレイに対しては情報機器用画像表示部品としての役割から脱皮して情報インターフェース本体(システム・オン・パネル)としての役割を果たすべく期待と要請が高まっている。
システム・オン・パネルの機能として要求されるものは,(1)情報要求の入力および転送と,(2)情報配信の伝達および表示であり,このため画素表示に加え,種々のデータおよび信号処理機能をディスプレイパネル上に搭載する必要がある。図1にLTPS TFT-LCDのシステムインテグレーションのロードマップを示したが,LTPS-TFTの性能向上に伴って,ディスプレイの駆動回路をはじめとし,インプットデバイスや情報処理機能をモノリシックにガラス基板上に形成出来るようになりつつある3)。
システム・オン・パネルの最終ターゲットは,シート・コンピュータの実現であり,CPU,大規模メモリなどをガラス基板やプラスチック基板上に形成するものである。システム・オン・パネル実現への課題としては,(1)LTPS-TFTの高性能化,とりわけ単結晶Si薄膜と良好なMIS構造,(2)設計ルールの微細化(1μm〜サブμm),(3)ショートチャネル化などに伴う信頼性の向上がある。

図1 LTPS TFT-LCDの技術ロードマップ
図1 LTPS TFT-LCDの技術ロードマップ

1. システム・オン・パネル

図2 PDA用システム・オン・パネルのブロックダイヤグラム
図2 PDA用システム・オン・パネルのブロックダイヤグラム

(1)PDAへの応用
ソニーはLTPS-TFT技術を用いて,26万色表示のHalf-VGA(320×RGB×480)TFT-LCDに要求されるすべての駆動回路をガラス基板上にモノリシックに集積することに成功し,03年2月に量産を開始した4)。LTPS TFT-LCDは,前述のようにガラス基板上に形成したLTPS TFTを使って液晶を駆動するディスプレイで,電子移動度の高いpoly-Siの特性を生かして,表示画素の制御だけでなく画面全体を制御する周辺回路もガラス基板上に直接形成でき(システム・オン・パネル),部品点数の削減,信頼性の向上,応用機器の小型軽量化が可能となる特徴を有している。開発した技術は,ガラス基板上への回路の一体形成をさらに進展させたもので,6ビットRGB表示データ,データ制御信号および電源の供給のみで,外部LSIなしに低消費電力の高品位画像表示を達成した。
開発したプロセス技術は,(a)poly-Siの形成に必要なエキシマレーザアニール技術の改良により,電子移動度を従来のLTPS TFTの2倍に高め,(b)従来の3μmから1.5μmの微細加工技術,(c)poly-Si界面の制御技術の改良により,低しきい値電圧を実現した。この新プロセス技術により高性能LTPS TFTの作製が可能となり,独自の回路技術を駆使して,(a)ゲートドライバ,(b)6ビットRGBパラレルインターフェース回路,(c)タイミングジェネレータ,(d)リファレンスドライバ,(e)Vcomドライバ,(f)DC/DCコンバータ,(g)高性能オフセットキャンセルアナログバッファ搭載6ビットソースドライバ,以上の七つの周辺回路をガラス上に高密度完全集積化した。このシステムディスプレイのシステム・ブロック・ダイヤグラムを図2に,表示例を図3に示す。
これにより,消費電力を従来型に比べ15%削減することができた。微細化技術を駆使することで狭額縁化を実現できたが,従来のパターンルール(3μm)で設計した場合,周囲9mmとなる。従って,最終アプリケーションの小型化と大画面化の両立が可能になった。このディスプレイの採用により,セットメーカーサイドでは部品点数削減,組み立ての簡素化が期待できる。

図3 PDA用システムディスプレイの表示例
図3 PDA用システムディスプレイの表示例

(2)携帯電話への応用
同社はPDA用に引続き,携帯電話用のシステム・オン・パネルの開発を行い,すでに量産中である5)。このシステムディスプレイと既存技術によるLTPS TFT-LCDおよびa-Si TFT-LCDによるモジュールの比較を図4に示す。この技術の採用で,a-Si TFT-LCDで6個,LTPS TFT-LCDで3個必要であった外付けのLSIが不要となり,しかもインターコネクション数をa-Si TFT-LCDで720か所,LTPS TFT-LCDで240か所だったものを18か所へと大幅に削減することが可能となった。
基本的に携帯機器のサイズは人間工学的に決められており,携帯機器用ディスプレイのサイズは限定されている。従って,今後は高精細化と狭額縁化が重要である。さらなる狭額縁を実現するために,有効表示領域の上下にそれぞれGreen側とRed/Blue側を配置する新ドライバアーキテクチャ(RBセレクタ駆動)と新回路の開発を行った。また,中間調でのカラーマネジメントのために,RGB独立で出力電圧をコントロールできるリファレンスドライバを搭載した。従来品に比べ,上下方向の額縁を2.3mm削減し9.3mm(上側6.4mm,下側6.4mm),左右2.15mmを実現した。このパネルは,供給電圧2.9V,RGB18ビットのパラレル転送でRGB独立のγ調整機能を有しており,中間調での色度コントロールが可能である6)。なお,このディスプレイはすでに量産されている。

図4 携帯電話用TFT-LCDモジュールの比較
図4 携帯電話用TFT-LCDモジュールの比較

図5 DSC用システムディスプレイのインターフェース回路
図5 DSC用システムディスプレイのインターフェース回路

(3)DSCへの応用
一般にDSCでは,本体とLCDパネル間のインターフェースには信号線の本数を少なくできる「シリアルインターフェース」が採用されており,専用のインターフェース回路が搭載されている。06年春から商品化したDSC向けLTPS TFT-LCDは,すでに携帯電話,PDA向けTFT-LCDで実績のある「システム・オン・パネル技術」を進化させ,高速対応シリアルインターフェース回路をTFT-LCD内に内蔵することで,インターフェース回路を削減した。またDSC用途として,より細やかな色表現を実現する中間調の色調調整機能も内蔵している7)。
図5に従来品と今回開発したTFT-LCDのインターフェースのブロック図の比較を示す。PDAおよび携帯電話用TFT-LCDに比べ,次の回路をガラス基板上にモノリシックに集積した。
(a)RGBシリアルインターフェース回路
この回路の搭載でDSC(セット側)からTFT-LCDパネルに直接映像データを入力できる
(b)RGB独立γカーブ(色調,階調)調整機能回路
中間調の色調整が可能となり,より細やかなディスプレイ表示が可能となる
(c)デルタ配列対応FRC(Frame Rate Control)回路
5ビット(32階調)のデータ処理でありながら,6ビット(64階調)と同等の色表現を可能とした。この回路により,ガラス基板上に搭載したDAコンバータの小型化を可能にし,狭額縁化を実現した
周辺回路やシリアルインターフェース回路をディスプレイと一体化させることで,DSCの部品点数の削減と信頼性の向上,小型化などを可能とした。また,パネル部(パネル+駆動システム)の消費電力を従来比約30%削減した。表1にDSC向け1.8型,2.0型,2.5型システム・オン・パネルTFT-LCDの主な仕様を示す。

表1 DSC用システムディスプレイの仕様
型名 ACX343 ACX351 ACX350
画面サイズ
1.8型
2.0型
2.5型
LCDタイプ
LTPS TFT-LCD
画素数
320×240
354×240
354×240
ドットピッチ
112μm×112μm
112μm×124μm
140μm×156μm
画素構造
RGBデルタ
表示色数
25万47色
端子数
33ピン
供給電圧
8.5V,3.0V
消費電力
約70mW(パネル+駆動システム)

2. インプット・デバイスの集積化(センサ内蔵)

図6 フォトセンサ内蔵TFT-LCDの概念図
図6 フォトセンサ内蔵TFT-LCDの概念図

情報要求の一環として,要求者の認証および存在状況の伝達が必要である。このため,圧力・画像センシングも必要となり,ガラス基板上のTFTと容量素子との結合による圧力センシング,あるいは図6に示すようにガラス基板全体に分布させたTFTの光電変換機能を利用する二次元画像センシングなどの機能が利用される。
東芝松下ディスプレイテクノロジー(TMD)は07年のFINETECH JAPANで展示した技術内容をSID’07で開示した8)。このデバイスは,LTPS p-i-nダイオードによる感度の異なる光センサをパネル内に分散させ,しかもセンサの照射時間を変化させる回路から構成している。このことで,暗い所(インドア)から明るい所(アウトドア)まで広い環境下で動作可能となった。試作したインプット・ディスプレイは,2.8型で240×RGB×400画素を有する透過型LTPS TFT-LCD。入力は指またはライトペンの両方で使える。
昼間は指が画面に触れた際の影を検出してタッチパネルと同様に利用できる。夜間は指が画面に触れた際にバックライトの光が反射するのを利用して検出することが可能である。試作したIn-Cellタッチパネル内蔵TFT-LCDは,パネル上に透明膜を張る従来のタッチパネルに比べて,透過率低下による画面輝度の低下や外光反射によるコントラスト比の低下がない上,部品点数を削減できるため低コスト化が期待されている。
同社は実用化を進めたいとしているが,昼夜で指の認識方法が違うことから,昼間用と夜間用で別々のソフトウェアが必要になることや,そもそも昼夜であることをどのように検出して認識方法を瞬時に切り替えるかなど課題があるとしている。そのため,バックライトから赤外線を照射して昼夜問わず認識できる方式にするなど対策を練っていくという9)。第5回で紹介したSamsung Electronicsの容量式はこのような課題はない10)。どの方式が携帯電話機やPDA用として早く実用化されるのか,今後の展開に注目が集まる。

高集積化

1. DRAMフレームメモリ内蔵TFT-LCD11)

NEC液晶テクノロジーは,LTPS TFT-LCDのガラス基板上に230kビットのDRAMとフロントエンド回路で構成する画像フレームメモリを集積したLCDモジュールを開発した。このデバイスは,18ビット,26万色表示に対応したフレームメモリを搭載する。LTPS-TFT技術を応用したSOG(System on Glass)で40万個のシステムLSIを構築した。周辺回路の集積規模としては世界最大規模である。
このデバイスは独自の画像圧縮/伸張技術SPC(Smart Pixel-data Codec)で18ビットから一旦12ビットに圧縮して18ビットに戻すことで,データ量を抑えつつ26万色相当の画質を実現した。また,RGB画素配列を横ストライプ方式として,画像フレームメモリのセルレイアウトを最適化した。さらに,画像データの書き込みと読み出しをそれぞれ独立にランダムアクセスする駆動方式を採用し,30フレーム/秒の高速描画を実現した。試作品は,デバイスに占めるディスプレイの領域は約半分であり,LSIの設計ルールとの差異が顕著に現れている。

2. オプティカルイメージセンサ12)

セイコーエプソンは,1画素にa-Si:Hダイオードによるフォトセンサ,LTPS-TFTとキャパシタからなる積層構造のイメージセンサを開発した。このデバイスは6層配線とホールオンホール構造の採用で高開口率を実現。ディスプレイサイズは24mm×36mmで画素数1248×2144,解像度1300×1500dpiである。開口率は61%,SN比30,供給電圧5V。LTPS-TFTの応用として注目される技術である。

高品位化(半透過型IPSモードTFT-LCD)

第4回で半透過型のIPSモードTFT-LCDを紹介した13)。日立製作所からSID’07で画素設計と電気光学特性が報告された14)。ここでは同社のディスプレイと,反射特性を改善した同社およびエプソンの新規モードによる半透過型TFT-LCDをSID’07の論文から紹介する。この構造の特徴は,反射部にパターニングされたIn-Cell位相差板を有することである。このデバイスは,IPSモードの特徴を保ちながら反射特性が改善され,しかもデバイスの薄型化にも貢献する。2.4型QVGAパネルの特性は,透過率3.4%,色再現範囲(NTSC比)75%,透過モードのコントラスト比520:1,反射率4.6%,反射モードのコントラスト比5:1である。
IPSモードの半透過型の実現は困難と言われていたが,上述のようにIn-Cell位相差板の採用で商品化されている。しかし,反射モードの光学特性には改善の余地があった。エプソンイメージングデバイスは,透過部のIPSモードの特徴と反射部のECBモードの特徴を兼ね備えたデバイスを開発した15)。このデバイスの構造はTFT基板上に,透過部は共通電極,絶縁膜と画素電極で,反射部は反射板と画素電極で構成される。一方,カラーフィルタ基板上の反射部には,共通電極とIn-Cell位相差板が形成されている。試作品は,2.5型LTPS TFT-LCDで862×RGB×240画素の16万色表示である。従来構造に比べ2倍近く反射率が向上した。
日立は,上述のデバイスと同じ構造で,広視野角の透過型IPSモードと高反射の反射型ECBモードの特徴を兼ね備えた半透過型LTPS TFT-LCDを開発した16)。このデバイスは,画素を透過部と反射部に分割し,反射部にパターニングしたIn-Cell位相差板を設けた構造。試作デバイスは,2.2型QVGAで透過率3.5%,色再現範囲70%,反射率3.2%,反射モードのコントラスト比7:1。従来品に比べ反射特性は間違いなく改善されていることが認識できた。

おわりに

「LTPS TFT-LCDのデバイス技術動向−システム・オン・パネルと高集積化,高品位化−」と題して,技術ロードマップ,システム・オン・パネル,高集積化,高品位化の技術動向を述べた。これらの技術は量産されているものと開発中のものがある。市場からのコスト削減の要求に応えると同時に,いかに競合技術と差異化を図りながらLTPS TFT-LCDの特徴を見出せるかが重要である。

〈参考文献〉
1)鵜飼育弘:「低温ポリシリコンTFT-LCD技術」EDリサーチ(2005)
2)鵜飼育弘:「システム・オン・パネル技術の現状と将来展望」EDリサーチ(2002)
3)Y.Nakajima:IDMC2005 Digest pp.307-310(2005)
4)Y.Kida:EuroDisplay’02 Digest p.832(2002)
5)Y.Nakajima:SID’04 Digest pp.865-867(2004)
6)Y.Kida:EuroDisplay’05 Digest pp.530-532(2005)
7)ソニー:プレスリリース(2006)
8)H.Hayashi:SID’07 Digest pp.1105-1108(2007)
9)日経BP:Tech-On記事(2007)
10)鵜飼育弘:Semiconductor FPD Wold 8月号 pp.100-103(2007)
11)H.Haga:SID’07 Digest pp.1486-1489(2007)
12)T.Eguchi:SID’07 Digest pp.1097-1100(2007)
13)鵜飼育弘:Semiconductor FPD Wold 7月号pp.116-117(2007)
14)H.Imayama:SID’07 Digest pp.1651-1654(2007)
15)N.Koma:SID’07 Digest pp.1270-1273(2007)
16)S.Hirota:SID’07 Digest pp.1661-1664(2007)


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