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これが中小型ディスプレイの全貌

OLED,EPIDのデバイス技術動向
― 実用化の開始とアプリケーションの拡大 ―

鵜飼育弘/ソニー

はじめに

鵜飼育弘氏

第9回では,「OLED,EPIDのデバイス技術動向−実用化の開始とアプリケーションの拡大−」と題して,TFT駆動の有機EL(OLED)および電気泳動ディスプレイ(EPID)の実用化状況と,最近の学会・展示会などで報告された最新技術について概説する。
OLEDの市況は,参入メーカーがビジネスから撤退,もしくは開発を中止するなど暗いニュースが多かった。しかし,07年に入ってから携帯電話のメインディスプレイに搭載されたこと,ソニーが07年12月1日からOLED-TVを市販するとの発表で活気付いてきている。EPIDも,ここでは取り上げないが大型電子ペーパーとしての応用開発が活発化してきた。

TFT-OLED

1. 表示方式

OLEDのデバイス構造,材料,カラー化方式については,連載の第4回で紹介した1)。また,携帯電話用に実用化されていることも述べた。ここでは,カラー化方式の詳細とこれらの技術を適用したTFT-OLEDの事例を紹介する。
図1にカラー表示方式を示す2)。並置方式,白色・カラーフィルタ(CF)方式,色変換方式がある。各方式は一長一短があり,材料,プロセス,応用などの総合的な観点から方式が選定されているのが現状である。

図1 OLEDのカラー化方式
図1 OLEDのカラー化方式

(1)並置方式
ソニーから市販された3.8型480×320画素の「クリエPEG-VZ90」や「ウォークマン」に搭載された1型132×36画素のパネルなどがこの方式を用いている3)。発光効率の高い低分子系材料とマスク蒸着方式を用いて作製する方法が一般的である。この方式は,図1に示したように高効率で広い色再現範囲のディスプレイを実現することが出来る反面,マスクによる精細度の制限と材料の利用効率が課題である。実用化されているもののバックプレーンは低温poly-Si(LTPS)TFTである。a-Si TFTを用いた試作報告はあるが,実用化には至っていない。

図2 白色・CF方式の模式図
図2 白色・CF方式の模式図

(2)白色・CF方式
白色・CF方式は,三洋電機のHi-Visionデジタル・カムコーダ「Xacti DMX-HD1」に搭載された2.6型862×240画素のディスプレイに用いられている技術である4)。この方式の特徴は,図2に示したように,CFをTFT-LCDと同様にパターニングしているため,発光層のパターニングが不要であることにある。従って,蒸着時のマスクが不要でパネルの高精細化・高開口率化が可能である。しかし,CFを用いることによる発光効率の低下は防げない。そのため,高効率の白色材料の開発が重要である。同社のデバイスは,これらの欠点を解消する目的で,カラー化のためのCFはR,G,Bとし,白色(W)OLEDの4色を用いた構成とした(図2参照)。このことで,消費電力はRGBの3色方式で800mWを,RGBWの4色方式で270mWを実現している。なお,輝度は230Nitである。消費電力を約1/3にすることで,寿命を3倍にすることができた。
(3)色変換方式
この方式も発光層のパターニングが不要で,広い色再現範囲を実現できる。しかし,実用化に当たっては高効率・長寿命の青色材料の開発,および色変換効率の高い変換材料(特に赤)の開発が必要である。富士電機アドバンストテクノロジーと信州大学谷口研の共同開発成果を紹介する5)。両者が試作したディスプレイは,2.8型QVGAでアクティブマトリクス(AM)駆動,200Nit時の寿命(輝度半減)は2500時間。06年5月時点の効率は,RGB各々2.8cd/A,8cd/A,3cd/Aである。色再現範囲はNTSC比80%。115℃1500時間の高温保存での信頼性も確認されている。

2. 長寿命化

OLEDの長寿命化には,有機EL材料,防湿,防酸素封止,低消費電力,温度上昇など,総合的な改善が必要である。これまでの報告から,低分子系のRGBの寿命はそれぞれ10万時間,4万時間,2.5万時間である。一方,高分子系では,4万時間,1.2万時間,1万時間と低分子系に比べ劣っていた2)。
セイコーエプソンは,輝度半減寿命5万時間の8型800×480画素のOLEDを開発した。輝度は200Nit,コントラスト比は10万対1。長寿命化における最大の課題であった初期段階の輝度劣化を,発光材料の改善と独自の素子構造開発により克服し,実用化レベルである寿命5万時間以上を達成した6)。先日開催されたFPD International 2007に展示され,話題を呼んでいた。

3. フレキシブル化

図3 OTFTの断面構造
図3 OTFTの断面構造

ソニーは,プラスチックフィルム上に有機TFT(OTFT)とOLEDを集積化する技術を開発し,世界に先駆けてOTFTによるフルカラーOLEDの駆動に成功した7)。今回,プラスチックフィルム上に形成した柔軟性に富むOTFTを開発することで,薄く,軽く,曲げられるディスプレイを実現した。これまでのOTFT駆動OLEDの試作例の中では,世界初のフルカラー表示,世界最高精細レベル(160×120画素,80ppi,画素サイズ318μm角)の解像度を達成,曲げた状態でのフルカラー動画表示も可能とした。同社は,高精細化のためのトップエミッションOLED構造と新規OTFT集積化技術に加え,さらに高精細なトップエミッションOLEDを駆動するため,従来困難であったOTFT微細加工プロセスを開発した。
有機半導体層を加工する際,溶媒を用いる従来の微細加工方法では,半導体層の有機物にダメージを与えてしまう問題があった。これに対して,溶媒を使わずに,各画素内に設けた立体構造により半導体層の微細加工を行う新たな集積化方法を開発することで,駆動性能を損なわずに微細なOTFTを作製することが可能になった。これら技術の組み合わせにより,フルカラー化可能な精細度を実現した。試作したデバイスの断面構造を図3に示す。
従来のOTFTは,微細化を行うとソース・ドレイン電極と有機半導体層の間に生じる寄生抵抗の増大や,微細化プロセスに伴う有機半導体層へのダメージのために,ディスプレイ駆動に必要な特性を維持することが困難だった。今回,OTFT中の電流層に直接コンタクトを取り,寄生抵抗の低減を図った電極構造や,微細化プロセス後も良好な有機半導体/絶縁膜界面を形成する有機絶縁膜を開発し,特性の良いOTFTを実現,微細な画素によるフルカラー表示を可能にした。

表1 OTFTの仕様
有機トランジスタ材料 ペンタセン(C22H14
電子移動度 0.1cm2/Vs(ディスプレイ作製後の特性)
オンオフ比 106
チャネル長 5μm
Vth −5V
プラスチック基板材料 PES(ポリエーテルスルホン)厚さ200μm

ディスプレイの機械的な柔軟性を確保するため,基板にはプラスチックフィルムを用い,TFTの絶縁膜には,硬質な無機絶縁材料を撤廃し,有機絶縁膜のみを採用した。これにより,曲げた状態でも画像表示可能なことを実証した。表1に試作したOTFTの仕様を,表2に試作したOTFT駆動OLEDの仕様を示す。

表2 OTFT駆動OLEDの仕様
画面サイズ 2.5型
ピクセル数 120×RGB×160画素
ピクセルサイズ 318μm×318μm
解像度 80ppi
表示色数 1677万色
ピーク輝度 >100cd/m2
コントラスト比 >1000対1
駆動方式 OTFTを用いた2T-1C電圧駆動
スキャン電圧 30V p-p
信号電圧 12V p-p
パネル 0.3mm(最厚部)
パネルの重さ 1.5g(パネル部のみ,ドライバICなど除く)
TFT-EPID

1. E InkのEPID

図4 E Inkのマイクロカプセル型EPIDの断面構造
図4 E Inkのマイクロカプセル型EPIDの断面構造

TFT-EPIDの実用化製品には,04年にソニーから市販されたe-Bookリーダ「リブリエ」がある3)。ここで用いられたディスプレイは,6型SVGA(800×600)のa-Si TFTアレイ基板上に,E Inkのマイクロカプセル型EPIDを貼り合わせものである。図4にE Inkのマイクロカプセル型EPIDの断面構造を示す8)。負に帯電した黒色粒子と正に帯電した白色粒子が透明の溶液内に混在している。このようなインクを含んだ溶液は,透明有機膜の球状カプセルに閉じ込められ,さらに平面電極の間に挟まれている。画像の書き換え時には,外部から両電極間に所定の極性の電界を与え,黒色白色のインク微粒子の浮沈を制御する。図では背面板の電極に正の電位,前面板の電極に負の電位を与えると,白色が浮き上がり,逆ならば黒色が浮き上がる。透明電極を持つ前面板側から浮き上がったインクの色が見えることになる。このようにして表示される画像は,まさに印刷物のように,「紙」の「白」を実現できる。一方,反射型LCDの白表示が鼠色に見えるのは偏光板によるもので,E Inkのものは偏光板を用いていないことが大きな特徴といえる。
06年9月にソニーから発売された「Sony Reader」は,同じく6型SVGAで4階調のモノクロ表示,1回の充電で7500ページまで読めるのが特徴である9)。この商品は発売3か月で3万台を販売した。表示品位上の課題は応答時間と明るさであった。最近,従来の応答時間を2倍早くし,明るさを20%改善したものが開発された10)。このデバイスは,「Vizpiex」と呼ばれるもので,応答時間は従来の1200msから740msに向上し,モノクロの最大切り替え時間を500msから260msに改善した。反射率は従来32〜35%だったものを40%に,階調表示のビット数は2ビット4階調表示から3ビット8階調に向上した。
その結果,電子ブックのみに限られていたアプリケーションが,携帯電話,MP3プレーヤ,スマートフォン,電子辞書,タブレットPCへ応用可能になった。同社と製造元の台湾Prime View International(PVI)は,供給可能なTFTモジュールサイズは1.9型,5型,6型,8型,9.7型に拡大すると発表している。
また,Motrolaの携帯電話「MOTOFONE F3」にEPIDが用いられている。この携帯電話の筐体の厚みは10mm以下で,ディスプレイの基板はガラスではなくプラスチック基板である。表示は反射型のためサイドライトが備わっている。
凸版印刷は,東京工業大学 細野秀雄教授らのグループが開発したアモルファス酸化物半導体によるTFTが,室温で作製でき,従来のa-Siに比べても優れた特性を持つことに着目した。この材料を用いて室温でCF基板上にTFTを作製し,電気泳動方式のE Ink前面板と組み合わせることでフレキシブルなカラー電子ペーパーを試作した11)。アモルファス酸化物半導体TFTによるE Ink電子ペーパーの駆動は世界で初めてである。移動度は5〜7cm2/Vs,オン・オフ比6桁である。同社は,2型30×40画素の反射型カラーEPIDを試作した。LCDの様に偏光板がないもののCFを用いているため暗く,表示品位には改善の余地がある。

2. SiPix Imaging

先日開催されたCEATECのエヌ・ティ・ティ・ドコモのブースで話題を呼んだ電子ペーパー携帯は,SiPix Imaging製と言われている。これは,操作キーの表示部にSiPix ImagingのEPIDを用いたもの。このデバイスは,「マイクロカップ」と呼ぶ小部屋に白色粒子と着色した液体を充填している。表示色は,白色粒子の白と着色した液体の色の2色表示。同社では,これ以外に青色,赤色,緑色,黄色,黒色の液体を用いた5種の2色表示が用意されている。デモでは一つのボタンの領域に対して3種類の文字や記号が表示できることを見せていた。表示の切り替え速度は1秒程度で改善の余地がある。

3. ブリヂストン(電子粉粒体方式QR-LPD)

大日本印刷は,印刷技術によるOTFTをバックプレーンに用いたEPIDを開発した12)。OTFTは,ガラスもしくはプラスチック基板上にゲート電極およびゲート絶縁膜をフォトリソで形成後,ソース・ドレイン電極をスクリーン印刷,有機半導体をインクジェット,有機保護膜をスクリーン印刷で形成した。試作したTFTの特性は,移動度0.005cm2/Vs,Ion/Ioff 106(Vds=−80V)。このOTFTアレイとEPIDとしてのQR-LPD(Quick-Response Liquid Powder Display:ブリヂストンが開発)を組み合わせたデバイスを開発。ディスプレイサイズ81.3mm×41.3mm,画素数128×128,応答時間は80V駆動で0.3ms。E Ink製に比べ応答時間は早い。

おわりに

07年のSociety for Information Display(SID)はOLEDに始まりOLEDに終わったとSIDのレビュー記事に述べたが,いよいよ中小型TFT-OLEDが実用化され,この記事を目にされる頃にはOLED-TVが市場に出ているであろう。
EPIDは,電子ブック以外のアプリケーションも始まった。EPIDのカラー化によって,携帯電話のメインディスプレイやサブディスプレイばかりでなく,キーパッドに採用が検討されている。

〈参考文献〉
1)鵜飼育弘:Semiconductor FPD World 2007 7月号 pp.114-119(2007)
2)三上明義:プレスジャーナル 2007 FPD入門セミナー資料(2007)
3)鵜飼育弘:「薄膜トランジスタ技術のすべて」工業調査会(2007)
4)G.Harada:IDW’06 Digest pp.453-456(2006)
5)C.Li:SID’06 Digest pp.1372-1375(2006)
6)セイコーエプソン:ニュースリリース(2007)
7)I.Yagi:SID’07 Digest pp.1753-1756(2007)
8)安居勝:「液晶」第8巻第4号 pp.39-51(2004)
9)Sony Reader Home Page
10)E Ink:ニュースリリース(2007)
11)M.Ito:IDW’06 Digest pp.585-586(2006)
12)H.Maeda:SID’07 Digest pp.1749-1752(2007)


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