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半導体入門講座

第1回 半導体の物性

加藤俊夫氏

厚木エレクトロニクス 代表
サクセス インターナショナル 取締役
加藤俊夫

皆さん,コンニチハ。今年,半導体業界へ入られた新人の方々,今一度半導体を復習したい方々,これから始まる講座を何回かお付き合い頂くと目からウロコ。半導体が面白くなること請け合いです。

色々な種類がある半導体

皆さんは,デジタルカメラやカメラ付き携帯電話を持っているでしょう。そのカメラには,CCDやCMOSと呼ばれる半導体のイメージセンサが使われていて風景を電気信号に変えています。半導体は光を感じます。またCDやDVDにはレーザが使われていますが,これらも半導体の仲間です。すなわち,半導体は光も出すわけです。最近はオーディオやビデオも,テープやディスクに替わってフラッシュメモリが用いられ,極めてコンパクトな機器が販売されています。これも半導体技術の進歩の賜物です。
このように半導体には色々な種類がありますが,最も多く使われているのは,CMOS LSIと呼ばれる回路素子です。CMOS LSIはComplimentary Metal Oxide Semiconductor Large Scale Integrationの略で,シーモス エルエスアイと呼ばれています。
図1は半導体の家族を表したもので,CMOS LSIは我こそ王様であると威張っています。そこで,飛車,角行,金,銀には目もくれず,王様であるCMOS LSIに王手を掛けることにします。

表1 周期律表

I II III IV V VI VII VIII
H
水素
            He
ヘリウム
Li
リチウム
Be
ベリリウム
B
ホウ素
C
炭素
N
窒素
O
酸素
F
フッ素
Ne
ネオン
Na
ナトリウム
Mg
マグネシウム
Al
アルミニウム
Si
シリコン
P
リン
S
硫黄
Cl
塩素
Ar
アルゴン
K
カリウム
Zn
亜鉛
Ga
ガリウム
Ge
ゲルマニウム
As
ヒ素
Se
セレン
Br
臭素
Kr
クリプトン
Rb
ルビジウム
Cd
カドミウム
In
インジウム
Sn
すず
Sb
アンチモン
Te
テルル
I
ヨウ素
Xe
キセノン
ちょっと面倒な物性講座

図1 半導体の仲間達
図1 半導体の仲間達

CMOS LSIに入る前に,どうしても物性に触れておきたいと思います。皆さんは周期律表を中学校で習ったと思います。「卒業したら忘れてしまった」「何のために中学へ行ったの?」冗談はさておき,表1を見て下さい。この表のIII,IV,V族に注目して頂きたい。現在の半導体の大部分はシリコン(Si)を材料にしています。周期律表のW族のところに有ります。IV族の原子が結晶を作ると半導体になり,炭素(結晶になるとダイヤモンド)やゲルマニウム(Ge)の結晶も半導体になりますが,ここでは横道に入り過ぎるのでこれぐらいにしておきましょう。

半導体とは何?

図2 半導体の区分
図2 半導体の区分

「半分だけ導体っていう意味かしら」。合っているようで,少し違います。金属は電気を良く通すから導体,ガラスやプラスチックは絶縁物なので不導体,その中間の物質が半導体である。と説明される場合が多いですが,厳密には間違いです。純水に塩を少しずつ加えると,電気が流れるようになりますが,この食塩水は半導体ではありません。(図2)

どのような物が半導体かといえば,ある状態では不導体だが,ちょっと条件を変えると導体になる。そんな物質と言っておきます(厳密な学者先生から叱られそうな説明ですが)。その条件というのは,IV族のSi結晶中に,III族やV族の原子を添加すると大いに電気的性質が変わります。不純物を添加することをドーピングと呼んでいます。辞書によると,Dopeとは刺激剤や麻薬を飲むことと出ています。オリンピックではほんの少しドーピングすると,大いに活性化して凄い記録が出るから禁止されていますが,半導体でも同じで,III族やV族の原子をほんの微量ドーピングしただけで電気的性質がガラリと変わってしまいます。そこが半導体の面白いところです。

図3 Siの原子構造
図3 Siの原子構造

ところでSiの原子は,中心に原子核があり,その周りを14個の電子が回っていますが,量子論という難しい学問によると,どこでも勝手なところを回れるわけでなく,回れる軌道が決まっており,図3のように一番内側の第1軌道が2個,次の第2軌道に8個,その外の第3軌道に4個の電子があります。この一番外の4個の電子が重要で,周りの4個の原子と結合して結晶を作っています。これを共有結合と呼んでいます。

図4 Siマンションは4人家族
図4 Siマンションは4人家族

Si原子が結晶状態に並んだ様子をマンションに例えてみると,図4のように4人家族が暮らせる間取りになっています。そこへ5人家族が入居してきたらどうなるか。一人が余ってしまい,居る場所がなくなり末っ子の電子が追い出されてしまう。追い出された電子は隣の家に行くが,そこも4人で暮らしており,電子を入れる余地がない。そうやって,電子はマンション中を歩き回る羽目となります。
Si結晶中に,V族のリン(P)が入った場合はそのような状態で,第3軌道の5個の電子を持っているPは,Siと共有結合すると電子が1個余るのでこれを放出し,電子が結晶中を歩き回ることになります。電子はマイナスの電荷を持っているので,Negativeの意味でN型半導体と呼んでいます。では,3人家族が越してきた場合はどうなるか。3人家族だと1人分空いているので,そこへ隣の子供が移ってきます。すると隣は1部屋空くので,さらに隣の子供が移ってきます。この様子は図5のようになります。結局,子供が右へ次々に動くということは,空いた部屋が反対の左へ動くのと同じと考えます。空き部屋が次々移動するのは,プラスの電荷を持った粒子が動くと考え,これをプラスの孔と言う意味で,正孔と名付けています。英語ではHoleと呼んでおり,正孔が発生する半導体をP(Positive)型と呼んでいます。

図5 正孔(Hole)の考え方
図5 正孔(Hole)の考え方

空き部屋のある原子といえば,第3軌道に3個の電子があるIII族の原子です。アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In)もIII族なので該当しますが,一般にはホウ素(B)が用いられることが多いです。以上をまとめると,PやAsをドーピングすると,自由電子が発生してN型になり,Bをドーピングすると正孔が発生してP型になります。

MOSトランジスタの構造と動作

長くなりますが,MOSについて少し見ておきたいと思います。MOSはMetal-Oxide-Semiconductorで,日本語で言えば,金属-酸化物-半導体ですが,金酸半ではおかしいし,やはりMOSと呼ぶしかありません。

図6 水の流れに似ているMOSトランジスタ
図6 水の流れに似ているMOSトランジスタ

MOSトランジスタの動作は,水の流れで説明されると分かりやすいと思います。図6左図の水源からの水の流れは,水門を開くと流れるし,閉じると流れない。それと同じことが半導体で行われています。すなわち,MOSトランジスタのゲート電極へ電圧を掛けると,ソースからドレインへ電流が流れ,ゲート電圧を掛けないと流れない。つまり,ゲートの電圧によって,ソースからドレインへの電流をONかOFFにするわけです。電極の名前も,ソース(Source:水源),ドレイン(Drain:引き込み口),ゲート(Gate:水門)という水の流れから取った名前がついています。

図7 ソースとドレインが導通した状態
図7 ソースとドレインが導通した状態

NMOSトランジスタのゲート電極にプラスの電圧を与えると,Si側にマイナスの電荷,すなわち電子が現れます。すると,両側のソースとドレインは元々電子が沢山あるN型なので,ソースとドレイン間に少し電圧を掛けてやると,この間に電流が流れます。すなわちON状態です。ゲート電極にプラスの電圧が掛かっていなければ,Si表面に電子が現れませんから,ソースとドレインにいくら電子があっても,この間に電流が流れずOFF状態となります。このように,ゲートにプラスの電圧を与えるかどうかで,ソースとドレイン間の導通が決まります。これがMOSトランジスタの原理で,電子が流れるタイプをNMOSと呼んでいます。ソースとドレインがP型で,正孔が流れるタイプはPMOSと呼ばれます。実際に生産されているMOSはもっと複雑ですが,原理は以上の通りで,極めて簡単で拍子抜けしたでしょう。
次回は,NMOSとPMOSが同じチップに載っているCMOSを取り上げます。


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