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半導体入門講座

第2回 CMOS LSIの紹介

加藤俊夫氏

厚木エレクトロニクス 代表
サクセス インターナショナル 取締役
加藤俊夫

第1回は次の2点について説明しました。
(1)現在のLSIはSi単結晶を材料としているが,これはV族のBをドーピングしたP型と,V族のP,AsなどをドーピングしたN型があり,P型の結晶中には自由に動ける正の電荷を持った正孔が,N型には同様に電子が存在します。何もドーピングしていない真性半導体もありますが,一般の半導体デバイスでは,PかNのドーピングが行われます。
(2)P型基板に,N型のソースとドレイン領域を設け,酸化膜を挟んでゲート電極を設けたNMOSについて説明しました。
第2回では,CMOSの構造と製法についての概略を説明します。

まずはNMOSの製法

図1 NMOSの製造プロセス(ウェーハの断面)
図1 NMOSの製造プロセス(ウェーハの断面)

図1にNMOSの製造プロセスを示します。詳細なプロセスの説明は後ほど行いますが,ここでは概略のフローを頭に入れて下さい。
まず,結晶メーカーからSiのウェーハを購入します。直径200mm,または300mm,厚さ0.8mm弱の円板です。これを,(1)洗浄,(2)1000℃程度の高温炉で表面を酸化し,酸化膜(SiO2)を形成,(3)poly-Si膜を付け,(4)〜(7)フォトレジストをマスクとしてゲート電極パターンをエッチング,(8)ゲート電極をマスクにしてイオン注入(イオン注入は,高速に加速されたPやAsイオンをSi中に打ち込むものです。図のようにN型ゲート電極の下には打ち込まれないので,ゲート電極の両側にソースとドレインが形成されます。イオンが打ち込まれると結晶格子が乱れますので,1000℃近い高温でアニールを行います。(10)絶縁膜をデポジットしてそれに電極取り出し窓をエッチング,(11)表面から電極を取り出す。以上が,NMOSプロセスの概略で,思っていた以上に簡単でしょう。実際に生産しているLSIは,もっとはるかに複雑ですので,第3回からは詳細を見て行きます。

PMOSの構造と製法

図2 CMOSインバータ回路
図2 CMOSインバータ回路

NMOSがお分かりの皆さんには,PMOSの説明は不要でしょう。そう,N型の基板にP型の不純物をドーピングしてソースとドレインを作ればよい訳です。すなわち,NMOSにドーピングした不純物のP型とN型を逆にすればPMOSになる訳です。

消費電力が小さいCMOS LSI

現在はLSIの時代と言っても過言ではありませんが,そのLSIはほとんどすべてCMOSです。CMOSは,NMOSとPMOSを同一チップ上に作ったもので,図2のようにインバータ回路が良く用いられます。この回路では,NMOSとPMOSのゲート端子に同時に同じ入力信号が入りますが,すると,どちらかのMOSがONとなり,もう一方がOFFになります。

図3 NMOSとPMOSの等価回路
図3 NMOSとPMOSの等価回路

等価回路的には,図3のようになります。すなわち,入力が−Vなら出力は+V,入力が+Vなら出力は−Vとなります。これをインバータ回路と言い,ロジック回路の基本となっています。この回路の優れた点は,PMOSかNMOSのどちらかのMOSがOFFになっていて電流が流れないことです。ちょうど,旦那が怒り狂っている時は,奥さんが宥め役で,奥さんが立腹された時は,旦那が下手に出る。これが家庭円満の秘訣です。両方が同時に怒り狂うと,とんでもない電流が流れてしまいます。厳密に言えば,過渡現象的に電流は流れるのですが,直流的には流れず,消費電力が小さくなります。

CMOS LSIの構造と製法

NMOSの構造やPMOSの構造を勉強された皆さんには,CMOSはお茶の子さいさいだろうと思います。ただし,基板のSiウェーハは,P型を使うとNMOSになり,N型だとPMOSになります。すなわち,CMOSを作るためには,同一結晶にP型部分とN型部分を作る必要があります。これをP-Well,N-Wellと呼んでいます。さらに,もう一つ注意しなければならないのは,同じ結晶の表面に幾つかのトランジスタを作ると,相互の電気的干渉が起こるのを防ぐ必要があります。このため,トランジスタの周りは絶縁物を埋め込んだ溝で囲まれています。ちょうど,吉野ヶ里などの古代の遺跡では環濠住居が見られますが,そのように周りに溝を巡らせて外敵を防いでいます。LSIの場合は,他のトランジスタからの漏れ電流などを防ぎます。これをShallow Trench Isolation(STI)と呼んでいます。

図4 CMOSの平面図(左)とCMOSの断面図(右)
図4 CMOSの平面図(左)とCMOSの断面図(右)


CMOSの製法は,大まかに,(1)STIの形成(Si基板に溝を掘り,絶縁物としてSiO2を埋める),(2)P-WellとN-Wellの形成(局部的なイオン注入により,P型,N型部分を形成),(3)SiO2膜形成,poly-Si膜付け,ゲート電極を形成(NMOSとPMOS共通),(4)PMOSのソース/ドレイン形成のため,NMOS部分をフォトレジストでマスクしておいて,Bをイオン注入,(5)NMOS形成のため,PMOS部分をマスクしてPまたはAsをイオン注入,となります。このように形成されたCMOSの構造については,図4を見てもらえば,理解して頂けるでしょう。

図5 弥生時代のSTI
図5 弥生時代のSTI(外敵や野獣から身を守るため,
周りに溝を掘った環濠住居跡。STIの原型と言える)

以上,第2回ではCMOSについて取り上げました。ただし,今回の説明はほんの入り口であって,実際のCMOS LSIのプロセスは複雑です。例えば,イオン注入について今回のプロセスでは,(1)P-Well,(2)N-Well,(3)PMOSのソース/ドレイン,(4)NMOSのソース/ドレインの4回でした。ところが実際に生産されているCMOS LSIでは,15回にも及ぶ場合があります。第3回からは,その辺の技術を徐々に勉強して行きます。

<ちょっと脱線その1>

図5 弥生時代のSTI


MOSはMetal-Oxide-Semiconductorの略でした。しかし,どこにメタルがあるのでしょうか。ゲート電極をMetalと言っていますが,先の説明のように用いられているのはpoly-Siです。金属ではありません。実は,最初にMOSが現れた時は金属のAlでゲート電極が作られていました(右図参照)。SiO2膜に窓を開け,そこからP型やN型の不純物を拡散させて,先にソースとドレインを作り,ゲート電極を後から作ります。その場合は,ゲート電極を正確に位置合わせをしなければならず,少しでもズレると特性に大きな影響が出ます。そこで,ゲート電極を先に形成し,それをマスクにイオン注入する方法が開発された訳ですが,その後の1000℃近いアニールの温度にAlは耐えることができないことから,poly-Siになった訳です。poly-SiのMOSは,ソース,ドレイン,ゲートの相対位置が正確に決められるのが大きなメリットです。Alからpoly-Siに変わっても,最初に命名されたMOSと言う名前が引き継がれたわけです。


<ちょっと脱線その2>


半導体業界では,大きな数や小さな数を使いますので,慣れて頂く事が必要です。大きな方では,1000が1k(キロ),1000kが1M(メガ),1000Mが1G(ギガ),1000Gが1T(テラ)です。メガは大文字のMで表し,小文字のmだとミリと間違われます。音声や画像のメモリとして大いに使われ出したNAND型フラッシュメモリは,8Gビットのものが生産されるようになりました。これを,8×109とか,8×10E9のように記述することがあります。小さい方では,1/1000がm(ミリ),1/1000mが1μ(マイクロ),1/1000μが1n(ナノ)です。人間の髪の毛の太さは約70μm(マイクロメータ。ミクロンとも呼びます)で,1μmになると顕微鏡の助けがないと肉眼では全く見えません。ナノメータになると顕微鏡でも駄目で,電子顕微鏡の世界となります。なお,1nmの1/10が1Å(オングストローム)で,ほぼ原子の大きさです。現在,半導体の微細化はナノメータ時代に突入していますが,その先のÅ時代になると原子を割らなければなりません。



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