半導体入門講座
第3回 Si結晶の製作

厚木エレクトロニクス 代表
サクセス インターナショナル 取締役
加藤俊夫
前回までで,CMOS LSIの概略を理解して頂いたと思いますので,今回から,そのCMOS LSIの製造プロセスに用いられる材料やそれを用いたプロセスを勉強していきましょう。今回は,Si結晶の製作です。
単結晶の引き上げ工程
1. 地球上に無尽蔵にあるSi原料

図1 CZ炉の構造図 出所)SUMCO Webサイト
Siの原料は砂です。化学記号はSiO2で,酸素に次いで地球上に2番目に多い元素で無尽蔵にあります。大昔には火打石の主原料として,人類がいつでも火を起こせることが出来るようになり文明の発展に大きな役割を果たしました。それが現代では,LSIの主原料として情報化社会の発展の主役を演じています。
Siの単結晶は,Czochralski氏が発明した引き上げ法が用いられ,氏の名前に因んでCZ法と呼ばれます。単結晶の製法としては,CZ法の他に帯域溶融法(Floating Zone:FZ)もありますが,単体デバイス用などに極く僅か生産されているだけです。
2. 高純度にSiを精製

図2 Siのインゴットとウェーハ 出所)SUMCO Webサイト
Siの原料精製には,まずSiO2を還元してSiとし,塩化水素(HCl)を反応させて高純度のトリクロロシラン(SiHCl3;沸点31.8℃)を得ます。8mm程度の細い芯Siを通電加熱しておき,高純度のSiHCl3からSiを析出させて太い棒状にすると,99.999999999%まで高純度に精製されます。これをイレブン・ナインと呼んでいます。それを砕いて石英製のるつぼに入れ,1420℃以上の高温にするとSiが溶解します。その液状Siに小さな種結晶(Seed)をつけて静かに回転しながら引き上げます。すると図1のような円柱状のSi単結晶が引き上がってきます。これをインゴットと呼んでいます。通常,真空ポンプで減圧し,アルゴン(Ar)雰囲気中で行われます。

図3 結晶中と液体中の不純物濃度
(偏析係数が1より小さいと,液体中
より結晶中の不純物濃度が低い)
この時,P型Siを製作するならホウ素(B)を所定量ドーピングし,N型ならリン(P)やヒ素(As)をドーピングします。ところが,このドーピングが簡単ではないのです。例えば,1ppm(100万分の1)のBを溶融Siに入れると,結晶中のB濃度は,0.8ppm程度になっています。この場合の偏析係数が0.8という訳です。このようにして引き上げを続けると,段々溶けた液中のB濃度が上がってきますから,結晶の頭と尻尾ではかなり濃度が異なってきます。この様子を図3に示します。この偏析係数のいたずらで,インゴットの20〜30%は所定の濃度にならず,本番には使えません。N型のPやAsの偏析係数は0.3ぐらいですから,Bに比べて収率はかなり悪くなります。
3. 欠陥のない結晶からインゴットを作製
図1で,種結晶は非常に細いことに気がつかれたでしょう。種結晶を溶液に接触させる時の熱衝撃により転位と呼ばれる結晶欠陥が発生します。これをネッキングすることにより,図4のように外へ逃がしてしまって,欠陥のない完全結晶からインゴットを作るわけです。転位の多い結晶を種にすると,単結晶にならず,多結晶になってしまいます。
4. るつぼの大型化により対流が発生

図4 ネッキングで完全結晶を作る
インゴットは無欠陥であることが望まれますが,実際の引き上げでは液層と固層の界面の乱れなどにより結晶欠陥が発生します。特に,るつぼが大型になるにつれ,溶液の対流が問題となってきます。この対策として,るつぼ全体に大きな磁場を与えることのより対流をなくすMCZ(Magnetic Field Applied CZ)法が用いられています。MCZ法は,CCDイメージセンサの生産のため品質の良いSi結晶を作成する必要があったため,筆者の先輩や友人達が開発した技術で,実験中に大きな磁場を発生させたため,引き上げ装置が空中に浮き上がるというアクシデントなどあって苦労したようです。磁場がないと対流のため液面に細波が見られますが,磁場を掛けた途端に全くの静かな鏡面となります。現在は,大きな磁場を発生させるため,超伝導マグネットが使用されています。
5. 漏れ電流の原因となる転位

図5 転位と呼ばれる結晶の不規則性は,一般に見られる欠陥である
(力を加えて変形させる時,すべり面のすべての原子を同時に
動かすのは大きな力を要するが,転位によって1列ずつ移動する
場合は小さな力で変形させることができる)
ついでに転位(Dislocation)について少し触れておきましょう。図5の左図は,1枚の原子面が抜けたようになっています。結晶に力が加わるとこのような転位が発生します。図5の右図は,転位を介して1原子だけ横に動いて結晶が変形するところを表しています。CZ引き上げ中に熱変動による応力が加わったりすると転位が発生し,ICの漏れ電流の原因となります。
ウェーハ形状への加工
1. ウェーハ形状への加工手順
インゴットをウェーハの形状に加工するには,(1)外周研磨,(2)ノッチ(Notch),(3)スライス(Slice),(4)粗研磨(Lapping)/研削,(5)端面研磨,(6)エッチング,(7)鏡面研磨(Mirror Polish),(8)洗浄のような工程を経る必要があります。
2. 切れ込みでウェーハの方向を決定

図6 結晶軸方向の示し方
直径300mmのウェーハを製作する場合は,まずそれより少し太いインゴットを作り,外周を研磨して直径を揃えます。その次に,結晶軸の方向が分かるようにオリフラまたはノッチを付けます。オリフラとはヒドイ方言もあったもので,オリエンテーションフラット(Orientation Flat)のことです。図6のような切れ込みを付けて結晶軸方向を示します。結晶軸方向の検出には,X線回折が用いられますが,簡易にできる光像法も用いることも出来ます。300mmウェーハでは,ノッチが一般的です。
3. ウェーハの切断法

図7 ID SlicingとWire Saw Slicing
インゴットからウェーハを切り出す工程をスライシング(Slicing)と呼んでいます。従来は,図7左のような内周刃が用いられていましたが,300mm径のインゴットに対しては,ワイヤソー(Wire Saw)が用いられています。ワイヤは150μmφ程度のピアノ線で,切り代(Kerf loss)は,170〜200μm程度です。内周刃の切り代に比べれば半分以下で,ウェーハの収率が上がりました。ワイヤ速度は,10〜15m/sec程度の高速ですが,それでもSiの切断速度は1mm/分程度なので,300mmインゴットの場合は,300分(すなわち5時間)掛かることになります。スラリ(Slurry)の粒径を大きくすれば切断速度は上がりますが,切り代が大きくなってしまいます。ワイヤソーは切り代が少ない上,表面の加工変質層も薄いので,主流技術となりました。
スライシングされたSi表面には,10〜20μm程度の深さまで結晶のダメージ層がありますので,これを粗研磨して除去します。研磨材はアルミナの砥粒のスラリです。300mmウェーハの場合,775±20μm厚に研磨します。研磨ではなく砥石で研削する場合もあり,研磨と研削の両方行っている場合も多くあります。
ウェーハ端面は,固い物に触るとクラックが入りやすいので,図8のように面取りを行いますが,最近は,端面に付着するダスト類による歩留り低下が問題になってきている他,後の回で述べる液浸露光装置を使用する場合には,端面での泡の発生を減らすため,鏡面にする必要が生じています。
4. ウェーハの平坦加工

図8 ウェーハ端面の面取り
(エッジ部2mmに作成したチップは,
性能が保証できないことになって
いる。また,面取りの形状は各社
とも秘伝があり,標準化されてい
ないらしい)
粗研磨や研削を行った表面には,まだダメージが残っていますので,軽く表面をエッチングします。通常,フッ酸(HF),硝酸(HNO3),酢酸(CH3COOH)の混合液を用います。あまり深くエッチングすると,ムラが発生して平坦度を悪くすると言われています。
エッチングの後は鏡面研磨を行います。これには,砥粒で機械的に研磨するのではなく,シリカ粒子をアルカリ液に溶かした研磨液を用います。表面層を化学反応で研磨し易い材料に変えてから機械的に研磨すると考えられますが,機械的圧力を加えると化学反応が早くなるというデータもあります。アルカリの代わりに水で砥粒を溶いた場合は,研磨速度は非常に遅いので,化学反応は重要な役割を果たしていることが分かります。
200mmウェーハの時代は,片面を貼り付けて研磨していましたが,300mmになって,両面研磨が一般的になりました。
一般にRCA洗浄と呼ばれる,塩酸+過酸化水素,アンモニア+過酸化水素の液で洗浄されます。洗浄については,いずれ回を改めて解説します。
以上で,ウェーハの加工が終わりました。
ウェーハの検査工程
1. 多岐に及ぶ検査工程

図9 両面研磨機
でき上がったウェーハは,仕様を満足しているか検査を行います。項目としては,ドーピング不純物濃度(電気抵抗を測定する),平坦度などの形状,表面の異物有無などですが,最近は端面の状態なども厳しく検査する場合があります。
2. 平坦度の検査
ウェーハ全面のうねりや反りなども検査されますが,最近はナノトポグラフィと呼ばれるステッパで露光する際,1回の露光面積に近い範囲(大体20mm2)の平坦度を問題にしています。露光でも焦点深度をあまり大きくとれないため,高低差を数十nm程度にしなければなりません。他にヘイズと呼ばれる数〜数十nmの微少範囲での凸凹も,トランジスタが微細になってきたので問題視されています。
3. 異物検査

図10 パーティクル検出器
ウェーハ表面に金属や空気中の異物などが付着していると歩留りを下げる原因となるので,結晶メーカーでウェーハが完成した際には十分の洗浄を行い,異物が付着していないことを確認する必要があります。一般に,異物が付着して時間が経つほど異物とSiの接着力が増して,後から洗浄しても取れ難くなるようです。異物の検査は,65nmから45nmプロセス時代になるにつれ,より微細な異物が問題になってきており,デザインルールの2分の1が要求されているので,30nm程度の検査をしなければなりません。このような微細な異物は,走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するのが望ましいのですが,スループットが1時間当たり数枚と低いので,図10のような光学系検査器が一般的に用いられています。光の短波長化により検出感度は30〜50nmの検査機も出ていていますが,光学系で異物の場所を確認し,SEMで詳細な情報をレビューするような併用型の使われ方も行われています。異物の同定により,その発生原因を知ることができ,改善することができます。
4. 結晶欠陥の検査
先に述べた転位の他に,COP(Crystal Oriented Particle),スワール(Swirl:円形状の欠陥)などは特性に影響します。ただし,出荷する全ウェーハを検査できないので,抜き取り検査となります。
以上,今回はウェーハ製造工程を見てきました。実は,筆者はウェーハを使う立場ばかりで,ウェーハを生産した経験がありません。従って,今回の話は耳学問の部分もあってやや不安ですが,大きな間違いはないと思っています。結晶の専門家から見て何か不都合な点があればご指摘下さい。
| <ちょっと脱線その1> |
Si単結晶は,極めて高純度であり,結晶欠陥も少ないので密度の標準器として使われています。密度は,2.329g/ccです。実際には,特定標準器として,質量1kg,直径93.6mmの球があり,これを元に,色々な形のSi単結晶の第2次標準器が作られています。
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| <ちょっと脱線その2> |
本連載では,雑誌の決まりにより「ウェーハ」という表記を用いていますが,「ウェーハ」か「ウェハー」か,仲間と議論したことがあります。一般には「ウェーハ」派が多いようですが,虎のことを「タイーガ」と言うようなもので阪神ファンに叱られます。半導体大辞典はどうかと見ると,無難なところで「ウエハ」となっていました。Waferの発音になるべく近い表現にするなら,「ウェファー」と思いますが,そんなの見たことがありません。せめて「ハ」を「ファ」にしたらいかがでしょうか。でないと阪神ハンが呆れますよ。
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| <ちょっと脱線その3> |
現在,Siウェーハは世界全体で約700万枚/月生産されています。このウェーハの総面積を計算すると,野球場30面を埋め尽くす面積になります。こんな膨大な面積に小さな半導体チップを作っているわけですから,その数量は,膨大×膨大となります。
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