半導体入門講座
第4回 リソグラフィ

厚木エレクトロニクス 代表
サクセス インターナショナル 取締役
加藤俊夫
LSIの生産には,リソグラフィによるパターンニングは不可欠で,ウェーハ投入から完成までのリソグラフィの回数は,NMOSでは5〜6回,初期のCMOS LSIで10回程度でしたが,最近のLSIでは30〜40回にもなってきました。しかも超微細加工が要求され,多くのウェーハ工程の中でも最も重要な工程と言えるでしょう。今回はそのリソグラフィを取り上げます。
リソグラフィを一言で簡単に言えば,「ウェーハに感光性樹脂(フォトレジスト)を塗布し,一部に光を当てて樹脂を変質させ,現像液でその部分を溶かすこと」です。これで今回の解説は終わります。と言うわけにも行きませんので,もう少し詳しく説明します。
リソグラフィ工程
1. フォトプロセスの原理

図1 フォトプロセスの原理
図1を見てもらえば,原理は簡単に理解して頂けるでしょう。露光された部分の高分子の鎖が切れて,現像液に溶けるポジ型と,逆にモノマーが架橋して溶けない高分子になるネガ型があります。
フォトレジストは,やや粘性を持った液で,ウェーハ上に滴下すると数秒の内にウェーハ全面に広がります。直ぐに高速回転し遠心力でフォトレジストを飛ばすと,0.2〜0.5μmの厚さになります。その後,100℃程度のホットプレートで溶剤を飛ばします。
実際の塗布工程では,反射防止膜をフォトレジストの上下に塗ったり,最近の液浸露光装置(ステッパ)では水に溶剤が溶けないようにトップコートを塗布したり複雑な工程となっています。
2. 高価な露光装置
「露光装置とはフォトレジストの一部に光を照射する装置」と言ってしまえば簡単ですが,1台20億円以上で製造工場にどんどん使われており,最近のEUVと呼ばれる実験機では,なんと1台70億円で販売されていますから驚きです。半導体には多くの高価な装置が使われますが,このステッパと呼ばれる露光装置がチャンピオンで,それだけ価値のある超精密機械です。まず,露光装置の変遷の歴史を見てみましょう。(図2)

図2 露光装置の変遷
現在,LSIの生産に用いられているのはステッパです。ステッパは図3のように,石英ガラスに金属クロム(Gr)でパターンを設けたマスクを通った光が,4:1に縮小されてウェーハに照射される露光機です。一度にウェーハ全面を照射することができませんので,図4のように端から順に照射していきます。この方式であるStep&Repeat,これを略してステッパ(Stepper)と呼んでいます。
3. 短波長化で解像度を向上

図3 ステッパの光学系
LSIのパターンは,ますます微細化の一路を辿っています。微細化すればするほど,集積度が上がり,動作速度が上がり,消費電力が少なくなると良いことずくめだからです。
入門講座としては,やや深入りし過ぎかも知れませんが,解像度について少々眺めてみましょう。基本になる方程式としてレーリーの式(解像度=k1×λ/NA)が用いられます。k1はプロセス条件と光学系で決まる定数です。また,λは露光光の波長で,NAはレンズの開口数を表しています。
この式に,k1=0.3,λ=193nm,NA=1.0を代入すると,解像度は58nmとなります。この程度の解像度が,現在の最先端の生産ラインで使われています。07年中には45nmで生産する工場が2,3ありそうですが,それにはさらに工夫がいります。

図4 Step&Repeat方式
定数k1を改善するには,位相シフトマスク,OPC(近接効果補正),変形照明,二重露光,レジスト(多層レジスト),反射防止膜(BARC,TARC)などの技術が用いられます。
波長λの改善は,水銀ランプのi線(365nm),エキシマレーザのKrF(248nm),ArF(193nm),EUV(13.5nm)と,短波長化が続きます。
レンズのNAの改善として,1.0以上は無理と思われていたのが,液浸ステッパにより,NA=1.3が実用化され,ステッパの寿命が延びています。
これらの詳細については,いずれ詳しく解説する機会があればと思っていますが,ここでは一例としてOPCマスクと液浸ステッパについて取り上げてみます。
4. 微細なパターンでは補正が必要

図5 OPCマスク
「ステッパは 角あるものを 丸くする」。のんきに俳句を詠んでいる場合ではありません。プロセスの微細化が進むと設計通りの四角いパターンをマスク上に作ってウェーハに露光すると丸になってしまいます。また,近接したパターンの影響を受けてパターンが太くなるパターン太りやパターンの細りが出来てしまいます。これを補正するため図5のように,角に変な模様をいれたり,ウェーハ上では消えてしまうダミーのパターンを入れたりします。
これを近接効果補正(Optical Proximity Correction:OPC)と呼んで,マスク製作が複雑になってきました。
5. 微細プロセスで活躍する液浸ステッパ

図6 マスクの製作
レンズとウェーハの間を水で満たす液浸(Immersion)技術が登場し,今や生産に用いられ,65nmや45nmといったプロセスが実現することになりました。
レンズとレジストの間に空気(屈折率1.0)ではなく,水(1.44)を満たすことにより,NA=1.3を実用のものとした他,さらにもっと屈折率の大きい液を使うことができれば,ステッパが2世代ぐらい延命され32nmは勿論,22nmすら行けるのでは,という議論がされています。
なお,(1)レジストの成分が水に溶解しレンズ表面に析出しないか,(2)水の中に発生する泡は露光欠陥を発生させる,(3)露光に伴う水の温度変化で屈折率が変わる,(4)ウェーハ上に水滴が残っても問題ないか,などの問題点が心配されていましたが,ほぼ解決されて生産に導入され始めています。
6. マスクの製作

図7 ペリクル
マスクの製作はウェーハのフォト工程と似たようなフォト工程で行われます。まず,厚い石英基板にCrとフォトレジストを塗布したブランクスを購入し,電子ビームで所定のパターンを露光,現像,Crのエッチングを行います。この様子を図6に示します。
電子ビームを照射するのは,露ビームと言うべきでしょうが,慣例で露光と言っています。
また,マスクで忘れてはならないのがペリクルです。もし,マスクにゴミなどが付着したまま露光すると,ゴミの像がウェーハに転写され,全チップが不良になってしまう危険があります。そこで,マスクのCr面より離れたところに薄い透明な膜を貼ります。これをペリクルと呼んでいます。ペリクル上にもゴミが付着することがありますが,図7のようにゴミの像はフォトレジスト上には焦点を結ばないので,ウェーハの欠陥にはならないのです。
7. スループットの向上

図8 32nmのパターン
以上,フォト工程を簡単に説明しました。実際のプロセスには多くのテクニックが駆使されています。例えば,ステッパは高価ですので,出来るだけ1台の処理枚数を多くしたい。1時間に処理できるウェーハ枚数をスループットと言いますが,現在のステッパの仕様では,300mmウェーハで140枚/時です。すなわち,1枚で100ショット露光する場合は,1ショットの時間は0.26秒となります。ウェーハの送り時間などを差し引くと,露光の時間は0.1秒ぐらいです。これでは十分な化学反応が起こりません。そこで,露光後に100℃程度に温度を上げて,熱によって化学反応を促進する化学増幅型フォトレジストが用いられています。この温度管理が極めて重要となっています。またアンモニアを含んだ雰囲気では化学増幅が行われず異常パターンが現れます。
最後に,某メーカーが32nmの解像度が完成したと発表したデータの写真を図8に示します。しかし,まだヨロヨロした頼りないパターンですね。193nmの波長の光でその1/6のパターンを抜くのですから,簡単ではないと思われます。
これで,LSIの基礎となる結晶とリソグラフィを勉強しましたので,次回からいよいよCMOS LSIの製作に掛かりたいと思います。
| <ちょっと脱線> |
レジストの塗布は,英語でCoatですから塗布装置は「コータ」と呼ばれていますが,ウェーハを回転させることから,Spinner(スピナ)とも呼ばれ,またトラックとも呼ばれます。なぜバスでなくトラックなのか知らないのですが,恐らく陸上競技の100m走のトラックと同様に,走る道(ウェーハを搬送する)という意味でしょうか。これも半導体の方言です。
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