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第6回 CMOS LSIのプロセス(2)
加藤俊夫氏

厚木エレクトロニクス 代表
サクセス インターナショナル 取締役
加藤俊夫

ソース/ドレインの形成工程

1. イオン注入による不純物ドーピング

第5回は,NMOSトランジスタのゲート電極を作成し,レジスト剥離するところまで進みました。今回は,イオン注入によりソースとドレインを形成するプロセスを勉強しましょう。
Si結晶にP型やN型の不純物をドーピングする方法は,(1)結晶引き上げ時にドーピング,(2)高温炉にSiを入れて,表面から不純物を拡散させる,(3)エピタキシャル法(後ほど説明します),(4)イオン注入法などがありますが,MOSトランジスタの製作にはイオン注入が最も一般的に用いられます。

図1 ソース/ドレインへのイオン注入
図1 ソース/ドレインへのイオン注入

図1は,イオン注入でソースとドレインに不純物をドーピングする様子です。加速されたイオンがウェーハ全面に打ち込まれると,poly-Siやフォトレジストが覆ったところはイオンが通過できず,図1のようにpoly-Si電極の両側のマスクされていない部分にソースとドレインが形成されます。SiO2は非常に薄いので,イオンが通過します。ソース,ドレインとゲートの相対位置関係がピタリ一致するので,これをSelf alignと呼んでいます。注入されるイオンの深さは,イオンの種類や加速エネルギーで異なりますが,10〜100nm程度が普通に用いられます(1μm以上の打ち込みも可能です)。当然,マスクになるpoly-Siやフォトレジストもこれ以上の厚さが要求されます。ソースとドレインの電気抵抗を下げるため,打ち込みイオン量は出来るだけ高濃度にして不純物濃度を上げます。通常,1015−16Atoms/cm2で,密度に換算すると1020Atoms/cm3程度になります。

2. 必要なイオンだけを抽出

図2 イオン注入機の構造
図2 イオン注入機の構造

イオン注入機の構成は,図2のようになっています。
まず,イオン源では,フィラメントを加熱して発生する熱電子などをガス状の不純物に当ててイオン化します。固体ソースも用いられますが,その場合は加熱してガス状にしています。出てきたビームは質量分離されます。磁場の中を荷電粒子が運動すると力を受けますね。同じ力を受けると,軽いイオンは曲がる角度が大きく,重い粒子は余り曲がらない。適当にスリットを開けておくと,望みの粒子だけをスリットから取り出すことができます。これを質量分離と呼んでいます。加速管では,数kVから数MVまで色々な加速電圧が用いられ,打ち込み深さが制御されます。電子1個が1Vの電界から受ける力を1eV(エレクトロンボルト)で表し,従って1kVの電界から受ける力は1keVのように表します。ダイポールにより平行なビームにしてウェーハに垂直に打ち込まれますが,その際ファラディカップへ到達したイオンを電流として計測し,何個のイオンが打ち込まれたかを,in situにカウントすることができます(in situという言葉は半導体産業では良く使われます。これはプロセス中に作業量を計測してその結果を作業中にフィードバックして作業量を正確に制御する場合に使われる言葉です)。このようにイオン注入のメリットとして,(1)マスクで打ち込む範囲を決め,(2)深さは加速電圧で決め,(3)ドーズ量はファラディカップの電流で制御し,(4)イオンの種類は質量分離で不純物を除けるので,浅い接合を作るには理想的なドーピング方法と言えるでしょう。

3. レジストをアッシングで剥離

イオン注入のマスクに使ったフォトレジストは,注入後は不要ですから酸素プラズマでアッシング(灰化)して剥離します。ただし,高濃度にイオン注入されたフォトレジストは,もはや有機物とは言えない物質に変化しており,酸素プラズマだけでは剥離できない場合があります。剥離されないで残った残渣をホット硫酸などで洗浄します。酸素プラズマにわずかにフッ素を添加するとか,後洗浄に有効な薬液なども販売されており,各社とも苦労している工程です。

4. 高温でSiをアニール

図3 イオン注入で結晶が壊れる様子
図3 イオン注入で結晶が壊れる様子
(陽イオンが徐々にエネルギーを失って,
やがて静止する様子。Si原子も弾き飛ばされる)

イオン注入の泣き所は,結晶が壊れてしまうことです。この様子を図3に示します。あるデータによると,Asイオンを50KeVで打ち込んだ場合,1個のイオンがSi原子1785個に変位を引き起こし,Bのような軽いイオンでも609個の変位を起こすと言われています。
乱れた結晶を元の完全な単結晶に戻すためには,高温のアニールが用いられます。Si原子は,通常1000℃程度の高温になると,結晶内でかなり動きが激しくなり,乱れていた位置から元の単結晶になるように移動します。高温にするには,通常は縦型や横型炉を用いられますが,少なくとも数分間の加熱が必要なのでこの間に不純物が動いて,図4左のように打ち込んだ分布が崩れて内部へ拡散してしまいます。
拡散しても差し支えない場合は,このような炉が用いられますが,極力拡散をなくしたい場合は,

図4 イオン打ち込み深さとアニール
図4 イオン打ち込み深さとアニール

図4右のような超短時間加熱が行われます。ランプ加熱により数秒で1000℃に昇温し,10秒程度の短時間保った後,急冷する方法で,RTA(Rapid Thermal Anneal)と呼ばれます。最近では,さらに拡散を抑えるため短時間アニールが要求され,図4のようなスパイクアニールなども実用化されています。

図5 MOSの構造(この後,電極付け)
図5 MOSの構造(この後,電極付け)

以上でNMOSトランジスタのソース,ドレイン,ゲートが完成しました。図5にNMOSの構造図を示します。この後,電極付けを行いますが,それは次回にご期待を。

<ちょっと脱線 −アトム君を知っていますか?−>

図

電場や磁場の中を荷電粒子が運動すると力を受けますが,この原理は非常に多くのものに利用されています。半導体関係でも,電子ビーム描画機,SEM(走査型電子顕微鏡),SIMS(二次電子質量分析)などに活用されています。ところで,「原子の中心にはプラスの電荷を持った核があり,その周りを電子が回っている」というのは小学生でも知っていますが,はたして本当でしょうか? 私は見たことがないので,信じられないのですが。
電子の発見者として知られるJ. J. Thomson氏は,原子をレーズンパンのようなものだと考えました。下図左のように,プラスとマイナスの電荷を持った干しブドウのような粒がぎっしり詰まっていると考えた訳です。
私も100年前に物理学者になっていれば,同じように考えるでしょう。ところが,Rutherford氏が,プラスの電荷を持ったアルファ線を照射すると,右図右のように大きく方向を変えたり,中には後方へ散乱してくる粒子がありました。こんなことが起こるのは,中心に強いプラスの電荷を持った場所があり,そこでα線がクーロンの力で反射されると考えました。この実験が決め手となって,原子の中心にはプラスの電荷を持った核があることが定説となり,原子モデルが確立されました。

<ちょっと脱線 −Channelとは−>

図

チャネルとは元々はラテン語の水道管の意味だそうですが,水路,運河,海峡の意味になり,「私は誰それと繋がりがある」など人間関係の水路になり,テレビのチャンネルでは電波の通り道の意味になっています。MOSトランジスタではソースとドレインの間をチャネルと呼んでいるのはご存知の通りです。イオン注入にもChanneling現象があり,少々厄介な問題です。図左は,結晶軸方向にイオンが打ち込まれた場合で,イオンの直径が小さい場合には図のようにどこまでも直進してしまいます。結晶の乱れや格子の熱振動などでいつかはどこかで止まりますが,どこまで進むかはイオンに聞いてくれで,注入深さの制御が出来ません。そこで,通常のイオン注入では,Bのように入射角を持たせて打ち込んでいます。
しかし,厳密にはBの軌跡のように衝突により進行方向が変わることから,Channelingが起こる可能性があります。
Channelingを完全に無くすには,図右のように,事前に結晶を乱しておく方法があります。例えば,Si結晶にSiをイオン注入して結晶を乱しておく訳です。こうすると,後から注入されたイオンにはChannelingは起こらないわけです。



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