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厚木エレクトロニクス 代表
サクセス インターナショナル 取締役
加藤俊夫
これまで主にCMOS LSIのプロセスを勉強してきましたが,次にこのようなプロセスを用いて生産されるデバイスを勉強しましょう。
デバイスとは,辞書によると「人が考案した装置や図案」などと出ていますが,半導体屋がデバイスと言えば,ICやLEDやセンサなど電子部品のことを指しています。半導体デバイスでは,CMOS LSIが知られていますが,ディスクリートと呼ばれる単体デバイスもなくてはならない重要な部品です。これらのデバイスについて,この先数か月でみていきます。
私は学校を卒業された新人研修を何度も行ってきましたが,痛切に感じていることは,皆さんが半導体を使った機器についてほとんどご存知ないということです。デバイスの細かい性能など議論する以前に,どのように使われているのかを知っているのは基礎中の基礎だと思います。そこで,今回は個々のデバイスについて触れる前に,デバイスがどのような用途に,どのように使われているのかをみていきましょう。
1. オーディオ

図1 アナログ信号のまま増幅して音量を上げる
簡単なオーディオシステムとして,マイクロフォンでしゃべり,スピーカから大きな声を出す場合を考えてみましょう。人の声は空気を振動させてマイクに伝わり,マイクの中の電荷を持った薄い膜を振動させ,その振動がコンデンサ容量に変換され電気信号として取り出されます。これが一般に使用されているエレクトレットコンデンサマイクの原理です。磁界の変化を使うムービングコイル型などもあります。スピーカはこの逆で,電流の変化を磁界の変化に変え,磁界が変化すると力が発生するというフレミングの左手の法則で振動板を振動させて音を出します。これが一般に使われているダイナミック型スピーカの原理です。電気信号は図1のように増幅され,元の波形をアナログ信号としてそのまま増幅しています。最近はデジタル回路を用いている場合もありますが,出力回路はアナログでパワートランジスタが必須です。
次に,同じように音を出すCD(コンパクトディスク)をみてみましょう。CDは,直径12cmのポリカーボネートの円盤に,0.5μm程度の微小な窪みが多数設けられ,その上をアルミニウムの反射膜で覆われています。そこへ波長780μmのレーザ光を当てると,窪みのない部分からは光が反射してきますが,窪みからは1/2波長位相差のある反射光のため,打ち消しあって暗い光となります。このように窪みの有無による反射光の差をフォトダイオードで電気信号に変換すれば,明暗の2値のデジタル信号が得られます。

図2 アナログ信号をデジタルに変換する
図2は,アナログ信号の音声をデジタルに変換するときの様子を示したものです。すなわち,アナログ信号を適当な時間間隔で読み取り,それを2進数に変換します。
これをサンプリングと量子化と呼んでいます。これにより,アナログ信号は,0と1の並んだデジタル信号に変換されます。
2. 携帯電話
あなたが東京にいて,大阪にいる友人の携帯電話を呼び出すとつながりますが,何故,大阪にいることが分かったのでしょうか。ご存知のように携帯電話からは常に自分の番号を知らせる電波を近くの基地局へ発信して自分の位置を知らせています。従って,あなたの携帯電話は,電話自身が090-1234-5678という番号を記憶していなければなりません。これにフラッシュメモリが使われています。フラッシュメモリは不揮発性メモリの代表選手で,一度記憶すると半永久的に記憶しています。発信周波数はGHzという高周波ですから,周波数特性の良いトランジスタが必要で,GaAs(ガリウム砒素)などの化合物半導体が用いられています。最近はSiの高周波技術が進みSi化が話題になっています。

図3 TDMA方式の携帯電話
次に音声の伝送を調べてみましょう。通常の卓上型電話は,アナログ信号のまま伝送しますから,図3のように1回線で1通話です。ところが携帯電話はデジタルに変換して送りますから,図3のように1回線で4通話を送ることができます。すなわち,四つの会話をデジタル信号に変換すると,その信号は送信している最中はどんな方法で送っても,受信側で元の信号に復調できればよいわけです。これがTDMAと言われている方式でデジタルの面白さと言えます。最近は,スペクトラム拡散という通信方式を使ったCDMAが使われるようになってきました。これについては省略しますが,これらは音声多重と呼ばれる方式です。
3. PC

図4 PCの構成
PCについては私より皆様の方が良くご存知でしょう。でも一応解説しておきます。PCを動かすには,OS(Operation System)や各種のソフトウェアが必要で,これらはHDDに収められています。色々な演算処理をするのは大規模ロジックLSIのCPU(Central Processing Unit)ですが,CPUとHDDが直接やり取りをしていると時間がかかりますから,HDDのデータは,まず最初に半導体デバイスのDRAM(Dynamic Random Access Memory)に移され,それとCPUがやり取りして演算し,その結果をDRAMに蓄えます。DRAMについては,後で詳しく勉強します。人とPCとの情報の交換は,IO(Input/Output)回路を通じて行われます。例えばキーボードを叩くと,それに応じた文章を書くことができますが,キーボードの信号に応じて漢字が出てくるように記憶しているLSIが入っているわけです。これらはROM(Read Only Memory)と呼ばれ,一度記憶すると書き換えないメモリです。PCの構成を図4に示します。
4. 画像処理

図5 TVのインターレース走査
念のため,まずTVの画像に用いられるインターレース走査を説明しておきます。皆様が家庭で受信されている地上波放送は,NTSC方式と呼ばれインターレース走査を行っています。すなわち,画像は1/30秒毎に送られてきますが,これだと動きの早い画像がスムーズに見えません。そこで,1/60秒毎に半分の画像を送っています。この様子を図5に示します。525本の走査線の内,奇数番の走査線の画像を1/60秒で送り,次の1/60秒に偶数の走査線の画像を送ります。これをインターレースと呼んでいます。

図6 A,Cの画面から,Bの画面を合成する
NTSCのTV放送の場合は,奇数と偶数の絵を1/60秒の時間遅れで出しているわけですが,走査線の数が半分ですから画像によってはスムーズな絵になりません。そこで,奇数と偶数の絵を足し算して1枚の画像にするようなプログレッシブ方式が用いられます。ハイビジョンで1080pと表示されている場合は,走査線の数が1080本でpはプログレッシブの意味です。カメラで撮影する場合などにプログレッシブはよく用いられている方式です。この場合,前の絵と次にくる絵を合成するためには,それぞれを記憶しておく必要があります。そこで,信号をデジタル化し,メモリにストアしておいて,二つの絵を合成するわけです。この様子を図6に示します。
筆者は詳しくありませんが,TVの放送では,色々な画像処理が行われています。例えば,物体の画像をクリアに見せるため輪郭を強調する,色については日本人の記憶色に合わせるため人物の顔はやや赤めにする,走査線の異なるカメラで撮影した画像は走査線数を変換して放送する,などの処理が行われていると思います。
一方,デジタルスチルカメラ(DSC)でも,500万画素が一般的になってきましたが,この一つひとつの画素の輝度信号と色信号をそのまま記録すると,メモリ容量がいくらあっても足りません。記録容量を減らすため,ご存知のJPEG(Joint Photographic coding Experts Group)と言われる画像圧縮などが用いられます。例えば空の景色などは,どの画素もほとんど同じ空色ですから,いちいちすべての輝度や色の信号を記録しなくても,「隣の画素と同じ」という情報さえあればよいわけです。また,ビデオカメラで撮った動画では,MPEG(Moving Picture Experts Group)と呼ばれる圧縮などが用いられます。これは,1/30秒前に撮影された画像と,次の画像を比べるとその差は一般に極めて少ないですから,その差だけを記録すればよいわけです(実際にはそんなに簡単ではありませんが)。これにより,メモリ容量は数十分の一に圧縮されます。最近では,ビデオ信号もテープやHDDに代わって半導体のフラッシュメモリで1時間以上の記録ができるようになってきましたが,圧縮技術の進歩によるところが大です。これらの圧縮には,信号を比較し合成するロジックLSIとそれを記録するメモリ半導体が大活躍しています。
5. LCDパネルに載っているトランジスタ

図7 LCDボトムゲート型トランジスタの構造
最後に,少々毛色の変わったトランジスタも取り上げてみましょう。今やLCDは大型TV受像機にも大々的に使われ,身近なディスプレイとなりました。LCDはバックライトの光を通すか通さないかで明暗を作っていますが,これにはガラス基板上に非常に多数のトランジスタを並べてスイッチとして用いています。ガラス上に単結晶Siを製作するのは難しく,一般には無定形(amorphousと呼ばれる)か多結晶(poly)Siが用いられます。この構造は図7のようにLSIのMOSとはかなり異なっています。図7をよく見ていただくと,LSIのMOSと同じようにソース・ドレイン・ゲートがあって,同じ原理で動作します。このトランジスタは,TFT(Thin Film Transistor)と呼ばれ,単結晶ではありませんから,電子や正孔の移動度が低く高速動作を必要な回路には用いられません。ただし,TFTの技術も進歩していますから,将来はありふれた回路ならガラス基板上のTFT ICで作られるようになるかもしれません。畳のような大きなガラス基板で小さなICを作ると,非常に安価にできるかもしれません。
今回は,半導体から少し離れましたが,半導体デバイスを理解するには絶対に知っておいて頂きたい用途についての基礎を勉強しました。このような解説は一般の入門書にはあまり見当たらないので,参考になるのではないかと思っています。次回からは,個々のデバイスについて取り上げて行きましょう。皆様からのコメントをいただければ有り難いと思っています。それにより,より良い講座にしていきたいと願っております。
| <ちょっと脱線1:デジタルとビット> |
「今やデジタル時代」などといわれるようにデジタルは日常用語になっています。元々はギリシャ語の指の意味だそうです。指は1本2本と数えますから,1/3本とか3.4本などということはなく自然数です。ところが,現在使われているデジタル信号は,1,2,3,4のような自然数ではなく,1か0の2値信号を扱っています。2のことを英語でBinaryと呼びますから,2本指(Binary digit)を略してbitと呼んでいます。 |
| <ちょっと脱線2:楽器の音> |
私は若い頃,ミュージックシンセサイザを自作したことがあります。周波数,波形,音量などの時間変化を回路から出力させれば,ほとんどの楽器の音を出すことができました。例えば,バイオリンを聴くと非常に澄んだ綺麗な音ですが,波形で見るとほとんど完全なサインカーブになっています(三角関数のsinです)。一方,鐘や太鼓は,最初のジャーンとかブオーンという音は波形が乱れており,回路的には雑音信号を重畳して入れてやります。ところが,鐘など10秒も経つと綺麗な澄んだ音に変わりますが,波形でいえばサインカーブになって徐々に音量が減って消滅するわけです。この関係を図に示します。現在市販されているミュージックシンセサイザはデジタル回路だと思いますが,私が作ったのは簡単なアナログです。皆さんもこの種の電気工作をなさってみてはいかがでしょうか。 |
| <ちょっと脱線3:ラジオは予言する?> |
夏の甲子園の高校野球は楽しみですね。ファイト溢れるプレーや,勝っても涙,負けても涙,TVの画面にこちらも感動させられます。ところで,TVで観戦していたところ,ラジオで同じ場面の実況放送が入りました。「カーン!打ちました,打ちました」とアナウンサーが放送してから,1秒後にTVで打つのです。何とラジオのアナウンサーは,次に打つことを1秒前に予言するのです! |
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